企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2. 経理の基準(規程等)
(2) 不正会計の防止
粉飾決算や脱税が後を絶たず、問題が生じるたびに、不正会計の再発防止策が議論されてきた。その例を次の①~④で示し、それぞれの効果について筆者の見解を記す。
① 経営者・従業員に対する意識改革と企業倫理の教育
社員の遵法意識に期待する方法であり、企業経営の本筋である。
しかし、社員の倫理的な義務感に期待するだけでは、再発防止策として不十分であり、経理処理プロセスの中で「牽制手続」を強化する等の具体的な防止策を併せて実施する必要がある。
② 経理システムのさらなる定型化・自動化の促進
経理業務の多くは、既に、定型化されてコンピュータで処理されている。この自動処理の割合をさらに高め、そこに牽制システムや異常検出システムを組み込めば、人の恣意的な操作によって生じる不正会計が減ることが期待される。
また、会計の原理は世界共通であり、先端的なシステム監査手法が開発されると、直ちに世界に普及することが可能である。
ただし、システムのプログラムの中に組み込まれて行われる不正行為を発見するのは難しく、厳しいシステム監査が必要になる。
- (注) 大型コンピュータが多くの企業に浸透した頃、従業員の社内預金の利息計算を担当していたプログラマーが、全員の利息について、1円未満の四捨五入の切り捨て部分(50銭未満)を自分の収入にしていたことが話題になった。(以上、筆者の記憶。)
電子情報が増大すると、相応の情報セキュリティ管理が必要になってコストが増大する傾向がある。しかし、そのマイナス面を克服して、さらなる電子化を図りたい。
③ 社外役員の充実・活性化と活用
経営陣が主導する不正会計の防止に関しては、中立的で客観的な立場にある社外役員(社外取締役、社外監査役)の働きが期待されている。
しかし、社外役員は一般的に社内情報が少ないので、社内の情報収集網(例えば、内部通報窓口)を作り、現場の実態を正しく把握する必要がある。
「不正会計の防止」を実践するためには、この分野の知識・スキルを有する者の起用が望まれる。
④ 内部通報制度の充実と活用
内部通報制度は「不正会計」の発見に有効である。
例 循環取引は、社内監査や第三者監査で発見するのは困難だが、内部通報体制が活用されていれば、発見の可能性が高くなる。
3. 管財・守衛の基準(総務部門)
(1) 管財
① 土地・建物の所有権管理・維持管理を行い、記録する。
例 境界確認記録、湿地対策、液状化対策、洪水被害対策、環境管理データ(土壌汚染計測データ等)、修理・改善記録、家賃等の収入記録
② 公共インフラの利用環境を整えて、使用料の支払い等を行い、それを記録する。
例 電気(自家発電を含む)・ガス・上下水道(工業用水・地下水を含む)・通信回線(公衆回線、専用回線)等に関する使用・供給・メンテナンスの記録
(2) 守衛(保安)
- ・ 守衛(保安)の業務規程を制定し、運用して、日々の業務記録を残す。
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守衛の業務記録は、何らかの事故・事件(その疑いを含む)が発生したときに、原因や関係者を絞り込むのに役立つものが多い。
記録方法を裁判で使えるように設計して、運用することが望ましい。 -
例1 守衛(保安)管理規程の構成要素の例
目的、守衛が所属する組織、責任者、守衛の心構え、制服、職務(火災・盗難防止のための構内の監視・巡視、整理整頓の監視、社員の入出門監視、夜間・休日の入出門管理、構内駐車場整理、異常発見時の措置、不審者・火災等の非常事態発見時の措置・緊急連絡、所定事項を守衛日誌等に記録)、勤務時間割、交代時の引継ぎ等 -
例2 守衛(保安)が記録する項目の例
構内の入出門記録、特定建物・特定作業部屋の入出記録、業務停止時(休日、夜間等)の建物の入出を管理して記録、社内外からの電話等の記録、作業所巡回時の防火・防犯の確認記録(施錠、ガス漏れ、たばこ不始末、不要な通電等)