◇SH0231◇シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(3) 丹羽繁夫(2015/02/26)

未分類

シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(3)

-神戸地判平成26年10月16日-

 

一般財団法人 日本品質保証機構

参与 丹 羽 繁 夫

(3) 同社取締役会が賛同意見を表明するまでの経緯

 -同社は、MSが同社に投資を行うか否かを判断するためには、根拠のある事業計画が必要であると考え、平成20年4月15日付利益計画以降数次にわたり利益計画を策定した;[5]

 -被告H.K.ら(創業家一族の取締役であった被告H.H.と併せて、以下「被告H.K.ら」)は、平成20年5月30日に、同社内のプロジェクトチームの検討結果を踏まえ、役員ミーティングを開き、3名の社外取締役ら(以下「被告社外取締役ら」)に対し、本件MBOにより同社株式を非上場化する計画を伝えた;

 -同社は、平成20年6月24日、株式会社KPMG FAS(以下「KPMG FAS」)に公開買付け価格の算定を依頼し、KPMG FASは、平成20年7月22日付利益計画に基づき、算定結果報告書ドラフトを提示した。このドラフトでは、DCF法で1,104円~1,300円、株式市価法で528円~544円、株価倍率法で897円~1,129円、修正純資産法で925円、という結果が示された;

 -8月12日、被告H.K.、被告H.H.、被告社外取締役ら、執行役3名、MS及びハヤテの協議が行われ、執行役からKPMG FASによる前述の算定結果速報値が、MSからEYTASによる算定結果速報値が示された。MSから、同社の過去の業績の推移や利益計画の変遷などに照らして、7月22日付利益計画について疑問が提示されたので、同社では、更に5つの利益計画を策定し、KPMG FASに提示したが、KPMG FASの再度の試算でも、DCF法では902円までしか下がらなかった;

 -8月27日に被告H.K.、執行役3名及び被告社外取締役らが出席し、役員ミーティングが開催された。被告社外取締役らは、本件MBO計画について初めて主体的に検討を開始し、KPMG FASに提出された利益計画の作成について、被告社外取締役らが関与しないところで行われてきたことを問題視し、被告H.K.らの関与を排除して、自ら本件MBOプロジェクトメンバーに対するヒアリングを行い、7月22日付利益計画の基礎とされた事業戦略及びその実現可能性を検討し、プロジェクトメンバーに対する「試算指示書」をまとめ、新たに利益計画を作成することを決定した;

 -8月31日に取締役会が開催され、被告社外取締役ら及び本件MBOプロジェクトリーダーであった執行役Oとの間で議論が行われ、8月31日付利益計画を、KPMG FASに提出する正式な利益計画として承認した。しかしながら、8月31日付利益計画策定プロセスにおいて、ハヤテが被告社外取締役らによる「試算指示書」の作成に関与し、8月31日開催の取締役会の議案及び8月31日付利益計画の承認に反対する執行役を説得するための理論武装についても、ハヤテが具体的なアドバイスを提供しており、被告社外取締役らがハヤテによるこのような関与とアドバイスを受け入れていた;[6]

 -9月5日、同社顧問弁護士事務所であった大江橋法律事務所より、本件MBO計画についての法律意見書(ドラフト)が手渡された。その要旨は、「4月15日付利益計画は一定の合理性が認められるものであること、8月31日付利益計画の作成時期がKPMG FASから株式の算定価格が提示された後であること、8月31日付計画に基づけばKPMG FASから提示される算定価格が低くなることが明らかであることから……、8月31日付計画はKPMG FASの算定価格を低くする目的で作成されたものであると判断される可能性が十分あり、本件社外取締役らが善管注意義務違反に問われる可能性も十分に存在する」という内容であったので、被告社外取締役らは、同法律事務所の見解は利益計画の実現可能性を考慮に入れておらず容認できないとして、当該法律意見書(正本)を受領しなかった;

 -9月10日、KPMG FASより、「8月31日付計画は7月22日付計画との乖離が大きい。また、極端な数字の変更があったにも拘らず、合理的な説明がないので、正式に算定書を出すことについては保留させてほしい」との連絡があったので、翌11日に、被告社外取締役らは、「8月31日付計画は保守的過ぎたので、利益計画の見直しを検討する。この見直し計画に基づいて株価を算定して欲しい」と要請した。9月13日に開催された臨時取締役会で、被告社外取締役らは、8月31日付利益計画を緩和するケースとして、2種類の中期利益計画を決議し、翌9月14日の臨時取締役会で、2種類の利益計画のうちのダウンケースに替えて、8月31日付利益計画を復活させる旨決議し、KPMG FASに対して、9月13日付利益計画をアップケースとして、8月31日付利益計画をダウンケースとして提出した;[7]

 -KPMG FASは、9月14日にみたび、算定結果を提出し、DCF法の価格レンジを681円~1,010円とした。株式市価法では、平成20年9月17日を評価基準日として、過去1か月間、過去3か月間、過去6か月間のそれぞれの平均株価を算定した上で、過去1か月の株価終値平均値と過去6か月の株価終値平均値をそれぞれ下限値、上限値として株式価値を算定し、1株当たり株式価値を518円~535円と評価した。株価倍率法では、上場類似企業のEBITDA倍率を採用し、1株当たり株式価値を976円~1,010円と算定した。修正純資産法では、平成20年6月30日現在の連結貸借対照表の簿価純資産額に、資産・負債の時価評価による修正純資産額を算出し、1株当たり株式価値を929円と評価した;

 -被告社外取締役らは、9月16日に、公開買付価格が最終的に800円に到達しないのであれば社外取締役を辞任する旨を申し合わせた上で、公開買付者らとの交渉に臨み、当初850円を提示した後も引続き交渉し、公開買付価格を800円とする旨提示した。公開買付者らは、9月18日に、1株当たり買付価格800円で合意した;

 -公開買付者らは、9月19日に、EYTASによる株式価値の算定を基に、同社による本公開買付けに対する賛同の可否、本公開買付けの成立見通し及び同社取締役会との協議・交渉を踏まえ、1株当たり800円で買い付ける旨公表した。同社取締役会も、同日、本公開買付けに賛同することを決定し[8]、賛同意見表明を開示した。併せて、「当社取締役会は、平成20年6月より、本取引の法的論点に関する説明を弁護士法人大江橋法律事務所から受けて」いるとの表明も、開示した。

…………………………

[5] 後掲脚注[7]参照

[6] 「試算指示書」の作成過程におけるハヤテの関与については、被告社外取締役らの指示内容が確定されたのが8月30日の深夜であり、明朝までにそれを書面化する作業をハヤテに依頼し、ハヤテが書面化したというものであり、理論武装等に関するアドバイスについては、ベースとする貸借対照表の基準日をいつにするかという点などについてのものであった。また、MSは、「試算指示書」のベースとなる考え方に基づき株式価値算定のシミュレーションを行い、ハヤテとともに、同社執行役等のプロジェクトメンバーに対する指示内容及び指示の出し方を検討し、ハヤテが書面化した「試算指示書」のドラフトをレビューし、コメントした上で、ハヤテを通して被告社外取締役らに送付した。

[7] 数次にわたる営業利益計画の変更は下記のとおりであった:

(単位:億円)

 

35期(21/4~22/3)

36期(22/4~23/3)

37期(23/4~24/3)

38期(24/4~25/3)

4月15日付

22

29

28

25

7月22日付

21

26

24

23

8月31日付

10

10

0.9

9月13日付

14

15

11

 

[8] 1株当たり公開買付価格800円は、平成20年9月18日までの同社株式終値の過去1か月間単純平均値517円、過去3か月間単純平均値531円、過去6か月間単純平均値535円、過去12か月間単純平均値565円に対して、それぞれ54.8%、50.7%、49.6%、41.7%のプレミアムを加えた価格であった。

(つづく)

タイトルとURLをコピーしました