厚労省、労働者派遣法を巡り告発・行政処分の2事案を公表
――改善命令では関係事業の総点検、再発防止措置、コンプライアンスの体制整備を求める――
厚生労働省は8月30日、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)違反の疑いで告発の実施を行ったと発表するとともに、9月3日には別の派遣元事業主に対して行政処分を行ったと発表した。同法の運用を巡って悪質または実態として典型的とみられる事案が厚労省から相次いで公表された恰好となっている。
告発の事案は広島労働局において今年1月17日、広島県呉市に本店を置き、主として他社の構内で機械のメンテナンス・組立て等を行う有限会社1社および同社代表取締役1名を広島県呉警察署に告発したもので、厚生労働大臣の許可を受けることなく労働者派遣事業を行った疑い(労働者派遣法5条1項違反・無許可派遣)。平成30年3月7日、同社の労働者1名が他社構内で作業中に死亡した災害が発覚の端緒となった模様だ。
労働者派遣事業はそもそも労働者派遣法に基づく厚生労働大臣の許可を要する事業であるところ、これを受けることなく行われた事案であり、かかる違法派遣に対しては1年以下の懲役または100万円以下の罰金が規定されているほか(同法59条2号)、行為者に加えてその法人または人に対しても罰金刑を科する両罰規定がある(同法62条)。
行政処分の事案は北海道労働局が9月3日に行ったもので、北海道旭川市に本店を置く運送会社を派遣元事業主として処分した。同社では少なくとも平成30年9月1日〜今年4月3日の間、(a)厚生労働大臣の許可を受けずに労働者派遣事業を行う他のA社から「在籍出向」と称して労働者40名の労働者派遣を受け入れ、また(b)当該労働者らをB社に供給することにより、少なくとも延べ4,779人日にわたって職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)が禁止する事業を行ったとされる。
行政処分の内容は(1)労働者派遣事業停止命令(労働者派遣法14条(許可の取消し等)2項)と(2)労働者派遣事業改善命令(同法49条(改善命令等)1項)で、(1)では発出翌日となる9月4日から12月3日まで労働者派遣事業の停止を求めた。(2)の改善命令では、次の3点に関する是正・再発防止措置等を命じている。①労働者派遣・請負の全事業を対象として、労働者派遣法・職業安定法に則して適正に行われているか総点検を行い、これらに係る違反があった場合には労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提にすみやかに是正すること、②処分理由に係る労働者派遣法・職業安定法違反について、その発生の経過を明らかにしたうえで原因を究明し、再発防止のための措置を講ずること、③労働者派遣法・職業安定法等労働関係法令の規定に違反することのないよう、派遣元事業主の責任において確実な方法により、遵法体制の整備を図ること。
上記①に絡んでは、当該総点検に際し(ⅰ)労働者派遣法24条の2(派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からの労働者派遣の受入れの禁止)、(ⅱ)職業安定法44条の条項について重点的に点検することを求めている。