インドネシア:BPJSによる新たな社会保障制度
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
インドネシア労働法は、全ての労働者とその家族に対して社会保障を受ける権利を保障している。かかる社会保障制度は最近まで国営の機関であるJAMSOSTEKによって運営されてきたが、2014年1月に新たな社会保障機関(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial:以下「BPJS」という。)が発足し、2015年7月に社会保障制度のBPJSへの移管が完了したところである。BPJSへの完全移行から既に半年ほど経過しており、すでに進出済みの日系現地法人においては概ね対応がなされていると思われるが、全面的な制度変更であることから、本稿では改めてその概要を整理することとしたい。
BPJSによる新たな社会保障制度(以下「新制度」という。)は、JAMSOSTEKにおける旧制度(以下「旧制度」という。)と同様、大きく分けて健康保険と労働保障の2つにより構成されている。このうち健康保険については、2014年1月より新制度が開始され、旧制度においては任意加入であった制度が、強制加入の制度へと変更された。さらに、2015年7月1日からは、労働保障についてもBPJSによる新制度が開始されている。その内容としては、旧制度下において存在した労災保障、死亡保障、及び老齢保障に加えて、年金保障が含まれることとなった。また、新制度では、健康保険及び労働保障のいずれにおいても、インドネシアに6か月以上就労する外国人労働者についてもこれらへの加入が義務付けられる点に留意が必要である。
各制度の根拠法令、保険料/拠出額、並びに雇用主及び労働者の負担割合をまとめると、以下の表のとおりである。
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根拠法令 |
保険料/拠出額 |
負担割合 |
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健康保険 |
健康保険に関する大統領令2013年第12号及びその改正に関する大統領令2013年第111号 |
2015年7月1日以降は月額給与の5% |
左記のうち4%分が雇用主負担、1%分が労働者負担 |
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労働保障 |
労災保障 |
労災保障及び死亡保障制度に関する政令2015年第44号 |
月額給与の0.24%~1.74%(職務環境のリスクレベルによって異なる。) |
全額雇用主負担 |
死亡保障 |
労災保障及び死亡保障制度に関する政令2015年第44号 |
月額給与の0.3% |
全額雇用主負担 |
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老齢保障 |
老齢保障制度に関する政令2015年第46号 |
月額給与の5.7% |
左記のうち3.7%分が雇用主負担、2%分が労働者負担 |
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年金保障 |
年金保障制度に関する政令2015年第45号 |
月額給与の3% |
左記のうち2%分が雇用主負担、1%分が労働者負担 |