公取委、東洋電装に対する下請代金支払遅延等防止法に関する勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 羽 間 弘 善
令和元年9月30日、公正取引委員会は、東洋電装株式会社(以下「東洋電装」という。)に対する調査(以下「本件調査」という。)の結果、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたことを理由として、同社に対して、下請法第4条第1項第3号の規定に違反する行為を行うことがないように社内体制の整備のために必要な措置を講じること等を内容とする勧告を行った。
本件調査において認められた事実関係は以下のとおりである。
すなわち、東洋電装は、下請事業者32名(以下「本件下請事業者」という。)に対して、自動車メーカーから製造を請け負うスイッチ、センサー等の部品等の製造を委託していたところ、東洋電装は本件下請事業者との間で当該部品等の単価の引下げ改定を行う旨の合意をした。もっとも、東洋電装は、本件下請事業者に責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、単価の引下げの合意日前に発注した部品等について、引下げ後の単価を遡及して適用し、平成30年1月から平成31年4月までの間、下請代金の額から、下請代金の額と発注後に引下げ後の単価を遡及適用した金額の差額を差し引くことにより、下請代金総額1,567万8,869円を減じた(以下「本件行為」という。)。
東洋電装の本件行為は、下請法第4条第1項第3号に該当すると判断されているため、以下では同号について説明する。
下請法第4条第1項第3号は「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止している。
「下請代金の額を減ずる」とは、本件行為のように下請事業者との間で単価の引下げについて合意して単価改定し、単価引下げの合意日前に発注したものについても新単価を遡及適用して下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引く行為のほか、①消費税・地方消費税額相当分を支払わない、②親事業者からの原材料等の支給の遅れ又は無理な納期指定によって生じた納期遅れ等を下請事業者の責任によるものとして下請代金の額を減ずる、③下請代金の総額はそのままにしておいて、数量を増加させる、④下請事業者と書面で合意することなく、下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金から差し引く、⑤毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませる(但し、ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金であって、あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がなされている等の要件を満たす場合は除く)等の様々な行為が該当する(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準「第4」「3」参照)。
また、下請代金の額を減じたとしても「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合には、下請法第4条第1項第3号には違反しないが、「下請事業者の責に帰すべき理由」があると認められるのは、次のア及びイの場合に限られる(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準「第4」「3」参照)。
- ア 下請事業者の給付の内容が下請法3条に規定する書面(以下「3条書面」という。)に明記された内容と異なる場合、下請事業者の給付が同条に規定する書面に明記された納期に行われない場合又は下請事業者の給付に瑕疵等がある場合に、下請事業者の給付の受領を拒んだ場合若しくは下請事業者の給付を受領した後速やかに又は下請代金の最初の支払時までにその給付に係るものを引き取らせた場合
- イ 上記アの場合において、給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせることができるのに、下請事業者の給付を受領し又はこれを引き取らせなかった場合において、委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合
上記の基準によれば、今般、令和元年10月1日に消費税率が8%から10%に引き上げられたが、増加した消費税相当分を親事業者が支払わない場合には、下請法第4条第1項第3号への違反となりうる点について親事業者としては留意する必要がある(なお、今般の消費税増税に伴う消費税転嫁拒否等については、迅速かつ効果的に是正するため「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が制定されている[1]。消費税の転嫁に関しては同法及び同法ガイドラインも参照されたい。)。
また、下請法第4条第1項第3号は、強行法規としての性質を有しており、下請事業者の責に帰すべき理由なく、行為の態様、外形等から減額に該当すると評価される行為が行われた場合には、仮に親事業者と下請事業者との間で合意があったとしても同号に違反することになる点についても留意が必要である。さらに、下請法は同号以外にも下表のとおり、様々な親事業者の禁止行為を定めており、下請法を遵守する上では、それぞれの禁止行為の内容を、営業担当者を含め社内にて周知徹底させる必要性が高いと考えられる。
【親事業者の禁止行為】
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