ベトナム:汚職防止法施行令(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鷹 野 亨
本稿では、前稿に続き、2019年7月1日に成立し、同年8月15に施行された、新汚職防止法の下位法令・ガイドラインとしての性格を有する政令59/2019/ND-CP号(以下「政令59号」という。)について、上位規範である新汚職防止法の対応する規定とともに要旨を紹介する。
▷ 汚職があった場合の長及び副長の責任及び処分
⑴新汚職防止法
公開会社等の長は、従業員が行った汚職行為について直接責任を負い、副長は、その管理する部署の従業員が行った汚職行為について長と連帯して責任を負い、社内規則に従って処分されると定めている(80.1条(c)号、72条、73.3条)。
⑵政令59号
政令59号では、上記の長及び副長の責任及び制裁について、公開会社等は、①責任の内容、②制裁の内容、制裁が免除される場合及び制裁の軽重の基準、並びに③制裁を科す場合の手続きを特定しなければならないとしている(55条)。
▷ 汚職防止法令遵守に関する監査
⑴新汚職防止法
当局の監査官は、新汚職防止法に反している兆候がある場合には、公開会社等の当該違反について監査することができる旨定めている(81条)。
⑵政令59号
政令59号では、上記の監査について更に詳細を定めている。
まず、公開会社等を対象とする、汚職防止法令遵守の状況に対する監査は、公開会社等の主要事業目的を所管する庁の監査官、又は公開会社等の本店所在地の省級人民委員会の監査官により、行われるとされている(56条以下)。
また、具体的に監査がなされる場合とは、①当該企業に、汚職防止法令不遵守の兆候があったとき、又は、②汚職防止法令違反に関する不服申し立て・告発があったときであるとしている。さらに、監査の結果は公表され、汚職防止法令違反があったという結論に至った場合は、違反した企業が所管庁に報告されることとなる。
まとめ
前述のとおり、上記の政令59号の示すガイドラインは、主に公開会社等を対象としている。
一方。ベトナムに日本企業が進出する場合、非公開である有限責任会社の形態を取ることが多い。非公開会社である場合、政令59号の示す公開会社等に適用されるガイドラインが適用されるものではなく、その定めに従っていないからといって、直ちに法令違反とはならない。
しかしながら、民間企業の職員に対する賄賂についても贈賄罪が成立する可能性があることが改正刑法で明確化され(改正刑法は2018年1月1日に施行)、新汚職防止法の制定、さらに政令59号の施行と立て続けに汚職防止関連の法整備が進んでいることからすると、汚職防止に関する規制は今後一段と厳格に運用されていく可能性がある。
したがって、ベトナムでの上場を想定していない場合も含めて、ベトナム進出企業は新汚職防止法及び政令59号の規定も考慮した社内コンプライアンス体制の整備を進めると共に、同法令の今後の運用を注視していくことが望ましい。