ベトナム:【Q&A】時間外労働時間数の上限
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
- Q. ベトナムでは、時間外労働時間数の上限が、他国と比べて厳しく設定されていると聞いていますが、その具体的な内容を教えてください。また、それに違反した場合の対処方法はあるでしょうか?
- A.
1. 現行の上限
現行の労働法における時間外労働時間数の上限は以下のように定められています。
単位 | 上限 | 根拠条文 |
1日 | 1日の通常勤務時間(原則として上限8時間)の半分 | 労働法第106条2項(b)号 |
(週勤務時間制の場合)通常勤務時間と時間外労働の合計で12時間 | ||
(週休日・祝日の場合)12時間 | 政令45/2013/ND-CP号第4条1項(b)号 | |
1月 | 30時間 | 労働法106条2項(b)号 |
1年 | 200時間(条件を満たし、当局に通知した場合には300時間) |
2. 違反への対応
上記の上限に違反してしまった場合、例えば祝日にある労働者が12時間を超えて勤務した場合や、ある月にある労働者が30時間を超えて時間外労働を行った場合などに、その違反を治癒する方法は法定されていません。次の日や次の月に代休を与えたり、残業代を割り増して払ったり、労働者から合意を取り付けたりしても、法令違反があったことは消すことができません。労働局による検査などで発覚すれば、法定の処罰を受けることになります。
政令88/2015/ND-CP号により改正された政令95/2013/ND-CP号第14条4項によれば、上記の上限を超えて労働者に時間外労働をさせた雇用者には、最大1億ドン(約49万円)の過料が科されることになっています。
他国系の外資企業の中には、この過料よりも、労働者に上限を超えた時間外労働をさせることにより得られる利益のほうが大きいため、意図的に上限を無視して時間外労働をさせている企業もあるようです。しかしながら、法令上は、上限を超えた時間外労働をさせた雇用者に対しては、過料に加えて、1~3ヵ月間の営業停止が命じられる(同条第5項)可能性もあることになっていますので、ご留意ください。
3. 改正の動き
日本でも近時時間外労働時間数の上限の設定を巡って議論が行われていますが、ベトナムでは逆にすでに厳しく設定されている時間外労働時間数の上限をどこまで緩和するか、という議論がなされています。
2016年12月にパブリックコメントに付された労働法改正案では、時間外労働時間の上限について、年間600時間までとするという案と、1日当たりの勤務時間を12時間までとし、かつ時間外労働がある日が5日間を超えて連続してはならないという制限だけとし、月間や年間での残業期間の上限を規定しないという案の二案が併記されています。
これに対して、ベトナムでは政治・社会組織の一つとして位置付けられており強い政治力を有する労働総同盟は、被雇用者の生活及び健康に対して悪影響を及ぼすという理由で、いずれの案に対しても強く反対をしています。
これまでにも、雇用者側を中心に、この上限の撤廃または緩和を求める声は多くありましたが、実現できてきていません。今回の動きも最終的にどうなるかはまだ見通せません。
また、時間外労働時間の上限に違反した雇用者に対する罰則については、ベトナム労働・傷病兵・社会省が2018年3月に発表した労働、社会保険及びベトナム人労働者送出における行政に関する処罰を定める政令案では、過料の金額を最大1億5千万ドンに増額し、他方1~3ヵ月間の営業停止を受ける対象を、労働者を101人以上雇用する雇用者に限るとする案が提案されています。