◇SH2874◇金融庁、監査法人のローテーション制度に関する調査報告 (第二次報告)の公表 佐藤修二(2019/11/07)

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金融庁、監査法人のローテーション制度に関する調査報告 (第二次報告)の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 

1 はじめに~監査法人のローテーション制度に関する金融庁の検討

 金融庁は、本年10月25日、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」(以下「第二次報告」という。)を公表した。金融庁では、2016年3月の「会計監査の在り方に関する懇談会」を契機に、不正会計事案の背景とも見られる企業と監査法人との関係の固定化を避けるための仕組みとして、監査法人のローテーション制度を導入することの是非について検討を進めて来ており、2017年7月の「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」(以下「第一次報告」という。)に続く第二次報告が出されたものである。

 海外に目を転じると、英国では2016年から監査法人のローテーション制度が導入されたものの監査市場のいわゆるBig4による寡占状態が改善されないことから、本年4月、競争・市場庁(Competition & Markets Authority)が、Big4以外を含む複数の監査法人による共同監査の義務付け、監査法人の監査部門と非監査部門の経営上の分離などを提言したようである。第二次報告を見ると、金融庁は、かかる英国の議論状況も意識している様子が窺える。

 会計監査の在り方は、コーポレート・ガバナンスの根幹に関わるものとして、企業にとって意味が大きい。以下、第二次報告に至る金融庁の検討内容を紹介の上、今後を展望する。

 

2 第一次報告と第二次報告

 2年前の第一次報告では、公認会計士法(同法34条の11の3及び34条の11の4)の定めるパートナーローテーション制度(監査法人は交代させないが、担当パートナーを監査法人内で一定期間ごとに交代させることを義務付ける制度)が東芝の不正会計事案において効果を発揮していなかったこと、企業と監査法人の監査契約が固定化していること、欧州では監査法人のローテーション制度が導入されたことなどが報告されていた。

 今回の第二次報告では、①大手監査法人におけるパートナーローテーション制度の運用実態や、②監査法人の交代が増加している傾向を受け、その実態や留意点・課題等について報告されている。

 上記①については、パートナーローテーション制度は確実に遵守されているものの、パートナー以外(監査補助者)の立場で10年以上にわたって当該企業の監査に従事していた者が引き続きパートナーに就任した事例など、全体として見れば相当な長期間にわたり、同一企業の監査に関与していたと見られるケースが一部に存在していたことが問題点として指摘された。

 また、上記②については、監査法人の交代は、直近1年間で140社の多数に上ること、交代に向けて十分な準備期間を確保し、体制整備を行うことが、実務上の混乱・支障を最小限に抑えることに繋がったであろうことが指摘された。他方、監査市場が大手監査法人による寡占状態であり、交代が困難である点が課題として指摘されている。

 

3 今後の動向

 第二次報告では、その要約資料《https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/11/01.pdf》でも冒頭記載の英国の抜本的改革に向けた議論が紹介され、また、報告書冒頭及び末尾でも、英国の動向も受けて、監査市場の寡占状態の改善や非監査業務の位置づけという観点も踏まえるべきことに言及されている。今後は、監査法人のローテーション制度にとどまらず、監査市場におけるBig4の位置づけや組織の在り方も視野に入れた検討が行われる可能性もある。

<第二次報告のポイント>

パートナーローテーション運用の実態 監査法人の交代の実態 英国の議論状況の紹介
制度そのものは遵守されているものの、全体として見れば相当な長期間にわたり、同一企業の監査に関与していたと見られる事例があるなど、運用について課題あり 監査法人の交代は増加傾向にあるものの、監査市場の寡占状態のため交代に実務上の困難が存在 Big4以外を含む複数の監査法人による共同監査の義務付けや、監査法人の監査部門と非監査部門の経営上の分離も検討中  

 

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