証券監視委、石垣食品株式外1銘柄に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 三 浦 貴 史
1 はじめに
令和元年11月8日、証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、石垣食品株式ほか1銘柄に係る相場操縦に対して、課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。
以下では、本件で問題となった現実売買による相場操縦につき解説するとともに、本件事案の概要を紹介する。
2 現実売買による相場操縦
- ⑴ 金融商品取引法(以下「法」という。)は、本来公正であるべき価格形成を直接又は間接に操ることで歪める行為として相場操縦を禁止しており、法159条2項1号は、その一つの類型として現実売買による相場操縦を禁止している。もっとも、現実売買による相場操縦の場合、行為自体は正常な売買と異なるところはなく、取引が行われる際に相場が変動すること自体も何ら不思議ではないため、正当な取引との区別が困難な面がある。
- そこで、同号は、①有価証券売買等を誘引する目的(以下「誘引目的」という。)をもって、②有価証券売買等が繁盛であると誤解させる一連の取引(以下「繁盛取引」という。)、又は、有価証券の相場を変動させるべき一連の取引(以下「変動取引」という。)を行うことを禁止しており、誘引目的及び繁盛取引・変動取引といった要件により、正当な取引と違法な取引を区別している。
- ⑵ まず、誘引目的の内容は、「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的」[1]とされている。
- この点、誘引目的は内心の問題であるから、これを直接的に立証することは困難であり、客観的な取引態様などから推認することになる。具体的な取引態様としては、「買い上がり買付け」、「下値支え」「終値関与」、「見せ玉」などが挙げられ、これらの取引態様の連続性・反復継続性や市場関与率などが勘案される[2]。
- ⑶ 他方、繁盛取引については、「出来高が多く売買取引が活発に行われていると誤解させるような一連の売買取引を意味すると解されるところ、」「(実際には、相場の変動をもたらすような一連の売買取引が行なわれれば、売買取引が繁盛であると誤解させる結果は生じると当然推認されるので、)変動取引の要件充足とは別個に繁盛取引の該当性をことさら検討する必要性はない」[3]とされている。
- また、変動取引についても、「相場を変動させる可能性のある売買取引等」[4]として広く解されていることから、誘引目的が認められる場合には、容易に認めることができると考えられている[5]。
- ⑷ なお、法159条2項1号に違反した者については、①刑事罰(法197条1項5号)、②民事責任(法160条が特別の損害賠償責任を定めている)、③課徴金が問題となり得る。
- かかる課徴金の水準は、「違反行為にかかる確定損益の価額+違反行為終了時に保有している売り・買いのポジションを違反行為終了後1ヵ月以内の最安値・最高値で反対売買をした場合の利得に相当する額」とされている(法174条の2第1項、課徴金府令1条の15、1条の16)[6]。
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(みうら・たかし)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2014年東京大学法学部卒業。2016年東京大学法科大学院卒業。2017年弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902 年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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