◇SH2923◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第82回) 齋藤憲道(2019/12/09)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. 要件1 高い生産性を実現する「経営管理システム」を作る

(2) 企業規範を守るプロセスを業務の中に組み込む

 業務を標準化・定型化し、それを基準・規格等にして文書化又はコンピュータ・システム化すると、一般的に管理品質が安定し、その分、業務の生産性が向上する。

 基準・規格の制定は次の点に留意して行い、業務の生産性を高くしたい。

① 作業を定型化・自動化する。

 1) 作業を定型化する

 作業内容を複数の要素に分解し、同じ作業を、同じ手順で行うように構成して、それを定型化する。これによって業務の効率化と、業務品質の向上が実現する。

  1.   複数の従業員がそれぞれバラバラの方法で作業し、又は、同一の作業者が案件(製品・役務等)毎に異なる方法で作業すると、通常、その製品・役務等のコストが高くなり、品質も安定性を欠く。 

 2) 作業を自動化する

  1.  ⅰ) コンピュータ・システム等によって作業が自動化されると、人の恣意的操作や作業ミスが入り込む余地が無くなり、作業品質が安定する。
     企業規範の遵守は、できるだけ、自動化された機械装置・検査装置やコンピュータ・システムの中で確保するのが望ましい。
  2.  (注) 管理を自動化することの可否は、次の2点を考慮して、総合的に判断する。

    1. 1  コンピュータ・システムを常に適正に維持できるようにする。
       ソフトウェアにバグがないことを最大限確認するとともに、万一異常が発生した場合に備えて、手動への切り替えや特定のシステムの閉鎖等の備えをする。
    2. 2  電子データの漏洩・不正操作を防ぐために情報セキュリティ管理が必要になり、その手間とコスト負担が増加する。不正には、内部者によるもの(愉快犯を含む)と外部者によるものがあり、双方を防ぐ必要がある。
  3. ⅱ) バーコード・QRコード・ICタグ等を用いて作業状況を記録する。
     作業者、作業対象(商品・機械装置・検査装置・金型・金銭等)、作業場所(工場・製造ライン・調理場・取引先・等)、作業内容(加工・組立・調理・授受・廃棄・引渡し・金銭授受等)

② 資料作成の二度手間をなくす

 同じ内容の資料は、1つだけ作って、各種の用途で共用する。

 現場での使用、上司報告、取締役会報告、監査対応(内部監査、監査役監査、会計監査人監査等)、当局の調査対応等のために、そのつど調整・編集等の作業を行って複数の資料(内容は同じだが外見が異なる)を作成することを避ける。

  1. (注) 意図的に二重帳簿を作成するのは犯罪である。

③ 検査(チェック)の仕方を定める

 ⅰ) 検査は、必要に応じて、全数・サンプリング、定期・抜き打ち等の方法を定めて行う。

  1. (注) 銀行では、金銭取扱い担当者を一定期間担当業務から外し(休暇を与える等)、他の者がその業務を代行して不正の有無を確かめる牽制システムが定着している。ただし、ネット・バンキングの場合は不正を行った担当者が世界のどこからでもアクセスして自らの不正を隠蔽する操作ができるので、他の有効な検査・牽制方法を組み合わせる必要がある。

 ⅱ) 検査の責任者・主体者を決める。

 他職場の者が検査、自主検査、外部の第三者が検査する等

 ⅲ) 簡便に実査する方法を考案する。

 現場の作業を簡便かつ実査しやすいように構築する。(一般的に、自動化・電子化すると実査が容易になる。)

 検討する項目:実数を把握する方法、理論値と実数を照合して差異を確認する方法、差異があればそれに対処する方法

④ 規範に違反した部署に業務改善を勧告し、改善措置を見届ける仕組みにする

 ⅰ) 監視する業務を特定(定義)する。

 ⅱ) 監視・改善の責任者・責任部門を明らかにする。(職務分掌規程、各職能の業務規程等で定める。)

 ⅲ) 監視し、違反行為を発見し、改善勧告し、それが実施されたことを見届ける。

 業務改善は、高い生産性を同時に実現することが重要である。

 「改善勧告」では、「改善策」を策定する期限と責任者、及び「改善策実施」の期限と責任者を明示する。(実施のフォローが曖昧になる例が多い。)

⑤ 行政・司法で受け入れられる管理水準にする

 1) 行政・司法が与える「遵法努力・捜査協力する企業への恩典」を享受できる水準

 行政・司法が、企業の調査・捜査を行うときに、企業の遵法努力・当局への捜査協力を斟酌する制度がある。企業は、平時から、この制度を適用できる水準の管理を行うことが望ましい。

 この管理を行えば、ほとんどの場合、違反行為を事前に回避することができる。

  1. 例1  独占禁止法の分野では、日・米・EUともに、カルテル行為等に参加した企業がその事実を自主的かつ早い段階で当局に報告した場合、一定の条件の下で、報告した企業に対する制裁を減免する仕組みが導入されている。企業内の早期発見と、当局への早期報告が重要である。
  2. (注) 日本の「課徴金減免制度」、米国の「アムネスティ・プラス」「ペナルティ・プラス」[1]

 例2 米国の連邦量刑ガイドライン、英国のUKBA(贈収賄防止法)ガイダンス[2]

 2) 裁判で「証拠」に採用される水準

 当局の検査・捜査等に対応するときに提出する情報(証拠)を、平時から、提出時に求められる水準で管理することが重要である。

 特に、電子データは、後日、編集・改竄等ができない仕組みにする必要がある。

  1. ・ デジタル・フォレンジック調査に対応する水準を確保して保存する。
  2. ・ 米国では、電子情報として記録されている情報に係るe-ディスカバリー[3]に対応できる水準にする。
  3. (注) e-ディスカバリーの条件に抵触すると、敗訴に直結するだけでなく、罰金が科される。

 当局が検査・捜査等で行う証拠発見作業と同様の効果を有する作業を、企業が自主的に常時行って、自らの法令違反や企業規範逸脱行為を発見・是正することができれば、遵法に有効である。

 従業員を対象とする「自己チェック・リスト」、「メール・チェック」等の種類を増加し、それぞれを深化できれば、効果が期待される。

  1. (注)「メール・チェック」は、キーワードで行う方法、AIを利用して行う方法等が考えられる。


[1] アムネスティ・プラスは、A商品で調査中の企業が、新たにB商品のカルテル行為を自主申告した場合に、Aの罰金も減額する。ペナルティ・プラスは、アムネスティ・プラスを利用しなかった企業に対する罰を加重する。

[2] 重大詐欺庁(Serious Fraud Office)長官と検事総長による「訴追に関する共同ガイダンス(Joint Prosecution Guidance of The Director of the Serious Fraud Office and the Director of Public Prosecutions)」2011年3月

[3] 電子証拠開示手続き(米国・連邦民事訴訟規則 Federal Rules of Civil Procedure 16条、26条、34条、37条等)

 

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