◇SH2930◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第83回) 齋藤憲道(2019/12/12)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. 要件1 高い生産性を実現する「経営管理システム」を作る

(3) 企業規範から逸脱する行為・製品等を、発見し、除去する仕組みを作る

 企業規範から逸脱する行為や製品を、発生直後に(できれば事前に)「発見」し、迅速に「中止・除去」する。

  1. (注) 日常業務の中で、企業基準から逸脱する行為・製品を発生させないことが基本である。

 具体的には、守るべき基準を定め、機械化・自動化(AIの利用を含む)・人による二重チェック等の方法を用いて、その基準を逸脱する行為・製品を直ちに(できれば事前に)発見する。

① 事前に発見して、逸脱を回避する(最善の策)

 作業に先立って基準(業務手順を含む)・規格を定め、その条件を満たすものだけについて作業を行う。

  1. 例 規格外品を使用しない(仕入れない)、期限切れの物を使用しない(廃棄する。食品の製造ラインが異常停止したときは、運転再開に先立って機械・搬送パイプ等の洗浄を行う。)、
  2.   例外的に部品・材料を「特別採用」する(この場合は、条件・期限を仕入先に明示する)、
  3.   決裁願(稟議)を審議する、交際費使用や出張を上司が事前承認、経理部門が出金・振込(仕入、業務委託、交際費等)に際して行う事前確認、その他の内部牽制システム

② 逸脱した直後に現場で発見して、措置する

 企業規範から逸脱した行為・製品を、逸脱直後にその現場で捕捉する仕組みを業務の中に組み込む。

 違法行為・製品安全に係る逸脱は、直ちに完全に除去して、再発防止策を講じる。

 逸脱した行為又は製品のリスクの大きさを評価し、優先順位(投資と効果を勘案して決める)を決めて措置する。

③ 次段階(次工程)に移った「ルール違反の行為・製品」を、早く見つけて、対策する

 現場で見逃して次段階(社外を含む)に移転した「企業規範違反の行為・製品」があることに、速やかに気付く仕組みを作る。気付いたら、発生部門に連絡(フィードバック)して、その時点で最善の対策を行う。

  発生現場の者が、発生後、できるだけ早く気付く仕組み。

 次段階の者(又は次々段階以降の者)が、作業の過程で気付き、その原因を作った部門に伝達(フィードバック)して、原因解明・対策・改善等を行う仕組み。

  1. 例 お客様相談窓口・販売代理店等が受け付ける顧客の苦情
  2.   消費生活センター・国民生活センター等への相談情報
  3.   部品・材料の場合は、納入先の購買部門・製造部門・品質管理部門等からのクレーム
  4.   当局からの実態説明要請

④「内部通報受付窓口」を活用する

 (内部通報制度の詳細は、第4章第1部2.(1)を参照)

⑤ 決算処理について経理と協議する

 「企業規範から逸脱した行為・製品」が業績に与える影響を決算に反映させるか否か(又は、反映させる方法)を経理部門と協議する。

 全社決算に与える影響が大きい場合は、遅滞なく、損失引当金を計上する方向で検討を進める。計上の是非の判断を決算確定直前の段階で行うと、利益を減少させる経理処理が敬遠されて、不適切会計を招く可能性が大きい。

(4) 職務分掌と責任者を明らかにする

 企業経営においては、経営方針を実現するために、組織が編成され、これを運営するための職務分掌(職務分掌規程)や決裁基準(決裁規程)等が定められる。

 その中に、企業規範を逸脱した行為・製品を発見して除去すべきことに関する規定を設けると、自己浄化能力を向上する具体的な行動につながる。

 職務分掌規程では、企業の各組織(経営企画部、総務部、人事部、経理部、技術部、営業所、工場他)の担当業務を規定し、各職位(社長、担当取締役、部長、所長、工場長、課長他)の職務権限及び義務が定められる。

 決裁規程では、経営判断を要する事項(経営計画の中の投資・契約等の具体的な実施を含む)が列挙され、それぞれの事項に関する起案者・合意を要する者・最終決裁権者等が定められる。

① 決裁規程の中で、対策起案者と、決裁権者を定める。

 決裁規程の中に、企業規範を逸脱した行為・製品を発見して、それを除去し、是正措置を講じる施策の起案者と決裁権者を定めると、日常の事業運営が緊張感と責任感をもって行われるようになる。

 なお、多くの場合、緊急時の「応急措置」と、中長期的な「恒久措置」は異なる。

 応急措置を講じて事態が一段落すると、そのままになって、恒久措置の必要性への関心が薄れてくる例が多いので、応急措置時に「恒久措置は、○年○月迄に、△部が起案する」と決めることが望ましい。

  1. 応急:現状を暫定的に把握、被害の救済、復旧、直面している危険・違法状態の除去 等
  2. 恒久:原因究明、改善措置(制度、組織、設計、材料、製造ライン、使用ソフト、警告表示、取引先、セキュリティ方法等)、人事処分 等

② 現場の作業者の職務分掌を明定する。

 企業規範の遵守に関して、現場の作業者が果たすべき具体的な役割を、作業マニュアルや作業指図書の中に書き込んで明示する。

  1. (注) 作業工程フロー図の形で示すと、全体の業務の流れを理解しやすい。

 内部通報受付窓口の存在とその意義を周知することも、現場作業者の遵法意識を経営に活かす(全員参加型経営)という点で有効である。

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