◇SH2933◇金融庁、「記述情報の開示の好事例集」を更新――新たに「役員の報酬等」を追加公表 松原崇弘(2019/12/13)

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金融庁、「記述情報の開示の好事例集」を更新

――新たに「役員の報酬等」を追加公表――

岩田合同法律事務所

弁護士 松 原 崇 弘

 

1 役員報酬等の開示の好事例の公表

 金融庁は、本年3月に公表した「記述情報の開示の好事例集」[1](以下「好事例集」という。)について、本年11月29日、「役員の報酬等」の開示の好事例を追加(更新)した[2]

 この好事例集は、企業情報の開示・提供のあり方について検討及び審議された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)における提言を踏まえて策定公表されたもので、適時更新されることとされ、有価証券報告書における開示例を中心に好事例を取りまとめたものである。

 

2 検討視点

 好事例集には、取り上げた好事例の全体を通じて分析・評価した記載がないが、事例ごとに着目点を青色のボックス内でコメントしている。要旨、役員報酬に関する事項として、報酬決定のプロセス(報酬委員会や取締役会での検討)、報酬体系の明示、役職ごとの報酬上限の開示、業績連動型の報酬(賞与、株式報酬)の決定の在り方等が紹介されている。

 本稿では、好事例集で最も多くのコメントがあった業績連動型の報酬に関する好事例を整理し紹介する。

 

3 業績連動型の報酬

 業績連動型の報酬の算定に関するコメントを分類し、以下のとおり整理した。

  1.  ⑴ 業績連動型報酬の算定方法について、業務目標とその評価指標等を具体的に記載し、評価指標について、評価ウェイト(役位)、目標値、実績値、目標達成率、これらに伴う業績連動係数(支給率)を定量的に記載するなど、詳細な記載をする。
(参考コメント)
業務目標とその評価割合を記載し、それに伴う評価係数・評価割合を加味した賞与支給率や株式交付率を記載(6-1)
業績連動報酬の評価指標について、評価ウェイト、目標値、実績値、達成率に伴う支給率が記載(6-7)
業績連動報酬に係る連動指標において、当期純利益を指標として採用している背景について、具体的に記載。取締役全報酬に占める業績連動報酬の割合を記載するとともに、目標値に対する実績値を記載(6-10)
業績連動型株式報酬の算定方法について、具体的に記載。目標値に対する実績値、目標達成率及び業績連動係数を詳細に記載(6-12)
業績連動報酬の算定に反映する各評価指標の評価ウェイト、目標値、実績値について記載(6-16)
目標とする指標について、目標値と実績を記載するとともに、業績連動報酬の算定に使用する係数についても記載(6-17)
業績連動報酬の算定方法について、係数の設定内容も含めて、具体的に記載。「会社業績支給係数」について、基準値と実績値及び実績を踏まえ報酬等の計算に使用した係数を定量的に記載(6-20)
各報酬の内容について具体的に記載するとともに、年次賞与などの業績に連動する報酬については、評価項目に対する評価指標と各役位の評価指標の評価ウェイトを記載(6-23)
  1. ⑵  役位との関係では、以下の2つのコメントが参考になる。
  2. - 担当組織の業績評価ができない取締役の担当組織当期純利益の計画達成率の考え方を記載(6-11)
  3. - 担当する事業業績を反映する「 年度業績連動金銭報酬 」制度を導入し、セグメントごとの目標値と実績を記載(6-13)
     
  4. ⑶  賞与
  5. - 役員賞与の算定に使用する係数について詳細に記載(6-14)

 具体的には、賞与に関し、経常利益額を段階的に区分し、その区分ごとに、事業計画の達成度及び前年度との成長度の比較から得られた評価(5段階)に沿って、役職ごとに賞与の係数を決定する「役員賞与テーブル」を記載していることが特徴的である。

 

4 むすび

 今回も、好事例集の策定公表に先立ち、開示の好事例に関する勉強会が開催され、投資家・アナリスト(7社)からは望ましい開示に関する意見や実例が紹介され、他方、企業(24社)からは、既に行われている創意工夫の紹介と、実状や悩みなど様々な意見がなされた。

 その中で、業績連動型の報酬の分かりやすい記載ぶりについて多数紹介されたのは、現時点における株主や企業の関心が高いことに起因するものと思われる。従来の基本報酬と賞与からなる報酬制度よりも、業績連動型の報酬制度は複雑であり、かつ、報酬額が変動し得る制度という点で株主にとって分かりにくい。そのため、総額開示にとどまらず、業績連動型の報酬に係る指標を、具体的に明確に示すこと、特に、役職ごと、また当期における実績、計画達成状況を、数値を用いて客観的に説明することが分かりやすさに資すると評価されたと考えられる。

 また、分かりやすさに関しては、図を活用することが有用である(6-8、6-23)。

 さらに、「取締役の報酬構成割合について、図表を用いて旧制度との比較をしながら、分かりやすく記載」(6-2)し、「固定・変動の割合を数値で示し分かりやすく記載」(6-3)することも参考になる。

 好事例集は、今後も更新がなされることを前提としており、業績連動型の報酬制度の開示の在り方その他の事項でも、有価証券報告書や統合報告書等による企業のディスクロージャーの実務上の在り方を考える上で参考になろう。

以上



[1]  SH2430 金融庁、「記述情報の開示に関する原則」及び「記述情報の開示の好事例集」を公表 森 駿介(2019/03/27)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=8534647

[2] 金融庁「記述情報の開示の好事例集」(2019年11月29日更新)6「役員の報酬等」の開示例
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/01_6.pdf

 

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