第三者委報告書格付け委、三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書」格付け結果を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 永 口 学
第三者委員会報告書格付け委員会(委員長:久保利英明弁護士、以下「本委員会」という。)は、平成28年9月1日、第10回格付け結果を公表した。第10回までの各格付け結果は末尾表をご参照いただきたい。
本委員会は、第三者委員会等の調査報告書を「格付け」して公表することにより、調査に規律をもたらし、第三者委員会及びその報告書に対する社会的信用を高めることを目的とし、弁護士等9名の委員で構成されている。
格付けは、以下の要素を考慮してA、B、C、Dの4段階で評価されるが、内容が著しく劣り、評価に値しない報告書はF(不合格)とされる[1]。なお、「A」の評価を受けた報告書は未だない。
- ① 委員構成の独立性、中立性、専門性
- ② 調査期間の妥当性
- ③ 調査体制の十分性、専門性
- ④ 調査スコープの的確性、十分性
- ⑤ 事実認定の正確性、深度、説得力
- ⑥ 原因分析の深度、不祥事の本質への接近性、組織的要因への言及
- ⑦ 再発防止提言の実効性、説得力
- ⑧ 企業や組織等の社会的責任、役員の経営責任への適切な言及
- ⑨ 調査報告書の社会的意義、公共財としての価値、普遍性
- ⑩ 日本弁護士連合会が2010年7月15日に公表(同年12月17日に改訂)した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」[2]への準拠性
今回の評価対象となった報告書(以下「本報告書」という。)は、委員構成の専門性(①)、事実認定の正確性(⑤)、原因分析の深度(⑥)、不祥事の本質への接近性(⑥)、再発防止提言の説得力(⑦)、調査報告書の社会的意義(⑨)などについて、概ね高い評価が得られている。
特に、トヨタ自動車株式会社の元理事であり、ハイブリッド開発統括を務めた燃費問題の専門家を委員に起用したことを評価する意見が多かった。
また、本報告書は、三菱自動車工業株式会社が過去に何度も不祥事を経てきたことを踏まえ、具体的な再発防止策に言及することなく、同社が自ら再発防止策を考えるに当たって骨格となるべき5つの指針を示すに留めているという特徴があるが、そのことについても好意的な評価が多くなされている。
その一方で、「最も重い責任を負う社長や会長の責任への言及が弱い」といった役員の経営責任(⑧)に対する言及の不十分さを指摘する意見(久保利委員長ほか)や、日産自動車株式会社との共同プロジェクトとして開発・製造された車種につき、同社や同社と共同して出資する株式会社NMKV側の事情も勘案した原因分析がなされていない、といった事実認定や原因分析の深度等(⑤及び⑥)の不十分さを指摘する意見(行方委員)もあった。
上記のような事情があり、「A」の評価は得られなかったものと考えられるが、評価に携わった委員の8割以上が「B」の評価を付した報告書は今回が初めてであり、委員の構成、調査の手法、再発防止策の提言のあり方等を考える上で参考になる報告書といえる。
本委員会の存続期間は平成29年3月31日までとされており、残り約半年間の間に2回程度の格付けの実施が予定されている。本委員会の格付けは、第三者委員会報告書のあり方を考える上での示唆に富むものであり、残りの格付けにも引き続き注目していきたい。
[1] 本委員会の概要についてはhttp://www.rating-tpcr.net/about/参照。