◇SH2261◇シンガポール:改正雇用法成立へ――管理職への適用拡大(上)  長谷川良和(2018/12/20)

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シンガポール:改正雇用法成立へ(上)

――管理職への適用拡大――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

1 はじめに

 シンガポール雇用法(Employment Act)の改正法案が、2018年11月20日に国会で可決された。改正後のシンガポール雇用法(「改正雇用法」)は、雇用法の主要規定の管理職への適用拡大を主眼とし、また時間外手当の対象となる労働者の範囲も拡大する等、シンガポールの雇用実務に大きな変化をもたらすことが見込まれている。改正雇用法は、2019年4月1日から施行予定である。シンガポールに事業拠点を有する企業にとっては、就業規則の見直し等を含め、法改正の施行に向けた準備が必要となるであろう。そこで、本稿では、改正雇用法の主な改正事項について2回に分けて紹介する。

 

2 主な改正事項の概要

(1) 主要規定の管理職への適用拡大

 現行法上、(ⅰ)入院・疾病休暇、(ⅱ)祝日休暇や、(ⅲ)不当解雇に対する保護を含む雇用法の所定の規定(「主要規定」)は、①非管理職、及び、②管理職のうち月額基本給4,500シンガポールドル(約36.9万円。1シンガポールドル=82円換算。以下同様)以下の者が原則として適用対象とされている。これに対し、改正雇用法の下では、「従業員」の定義に管理職が広く含まれることになる結果[1]、管理職全般に主要規定の適用が拡大され、更に年次有給休暇の規定も適用されることになる。従来、管理職のうち月額基本給4,500シンガポールドル超の従業員に関しては、使用者は契約原理に基づいて原則として自由に交渉可能であったが、改正雇用法施行後は管理職全般に主要規定の最低条件が満たされるように雇用管理する必要が生じる点、留意が必要である。図示すると以下のようになる。

  労働者分類 主要規定・年次有給休暇に関する保護
【現行法】 【改正雇用法】
管理職 月額基本給4,500シンガポールドル以下のみ適用あり 全員に適用あり
非管理職 適用あり

 

(2) 労働時間や時間外労働等に関する特別規定の適用対象の拡大

 現行法上、雇用法第4章に定める労働時間や時間外労働等に関する規定は、原則として、①肉体労働等に従事する単純労働者については、月額基本給4,500シンガポールドル(約36.9万円)以下の、また、②それ以外の非単純労働者については、月額基本給2,500シンガポールドル(約20.5万円)以下の者にそれぞれ適用されている。これに対し、改正雇用法は、非単純労働者について、月額基本給2,600シンガポールドル(約21.3万円)以下の労働者に適用を拡大することとしている。上記の結果、使用者は、月額基本給2,500シンガポールドル超2,600シンガポールドル以下の非単純労働者に対し、時間給の1.5倍以上の金額の時間外手当を支払う義務を新たに負うことになる。図示すると以下のようになる。

  労働者分類 時間外手当支払義務
【現行法】 【改正雇用法】
単純労働者 月額基本給4,500シンガポールドル以下に適用あり
非単純労働者 月額基本給2,500シンガポールドル以下に適用あり 月額基本給2,600シンガポールドル以下に適用あり


(下)につづく



[1] なお、船員や家庭内労働者といった一定類型の従業員は、改正雇用法の下でも引き続き、「従業員」の定義から除外される。

 

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