◇SH2940◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第85回) 齋藤憲道(2019/12/19)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 要件2 「見守り役」の6者が連携して監査の効率と品質を高める

(1) 取締役会、内部監査部門、内部通報受付窓口

 3) 現場の業務において、企業規範が遵守されていることの実査

  1. ・ 違反を発見した場合は、その事実を企業規範に従って、その業務の責任者に通知する。
    法律違反は直ちに止めさせ、是正措置・再発防止策を講じさせる。
    利益相反関係にある者への通知及び情報提供は避ける。              

 ① 取締役会

 「取締役会」は、「会社の業務執行の決定」を行い、「取締役の職務の執行の監督」を行う[1]

 取締役は、3ヵ月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない[2]
 取締役の職務執行の監督は、取締役会の会議室で行うこともあるが、時間・場所・参加人員が限られるので、実際には他の方法と組み合わせて行われる。
   他の方法の例:他の会議(経営会議、常務会等)、部門責任者会議、部門の決算報告、決裁願(稟議)、内部監査、内部通報受付窓口

 利益相反の壁 

 取締役は、利益相反関係にある案件の検討(取締役会以外の場を含む)に参加することを避けるべきであろう。また、取締役会における議案の審議及び決議においては、利益相反関係にある取締役等の影響を受けないようにする必要がある。特に、重要な案件の審議・決議は、利益相反関係にある取締役等を全て退席させ、無言の圧力を避けて行うのが望ましい。[3]

  1. 〔独立社外取締役の活躍が期待されている〕
  2.    上場企業は、社会規範を遵守しかつ有用な知見を経営に導入するために、独立社外取締役を起用することが求められている[4]
     
  3. 〔取締役と内部監査部門の連携を確保〕
  4.    上場会社は、内部監査部門と取締役(略)との連携を確保すべきである。[5]
     
  5. 〔監査役等が考えている社外取締役との連携〕
  6.    監査役等は、社外取締役との情報交換・連携を進め、監査の実効性の確保に努める。また、社外取締役が独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役と連携する。[6]ただし、社外取締役も監査役の監査の対象であることに留意し、特に、利益相反に注意する。
     
  7. 〔会計監査人が考えている監査役・経営者との連携〕
  8.    監査報告書における「監査上の主要な検討事項(KAM)」の記載は、監査人と監査役等の間のコミュニケーションや、監査人と経営者の間の議論を更に充実させることを通じ、コーポレート・ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスクに関する認識が共有されることによる効果的な監査の実施につながること等の効果が期待される[7]
     

 ② 内部監査部門

 「内部監査」では、企業が任意で業務運営の状況(企業規範の遵守、経営計画の進捗等)・資産の状況等の調査を行う。

 大規模な企業では監査部等の専門部門を設ける例が多い。

  1.    内部監査のメンバーは、監査目的(会計、管理システムの運用、市場競争、製品品質、設備投資、従業員モラル等)に応じて編成する。監査目的に応じて、必要なスキル(経理、コンピュータ・システム、営業取引、技術、製造、品質管理、法務等)は異なるが、経理業務の経験者を主力とする例が多い。
     内部監査部門が内部通報受付窓口の機能を有する(又は連携する)と、実態を把握する力が増す。

 利益相反の壁 

 監査対象との間で利害関係を有する者(可能性がある者を含む)は、全員、監査メンバーから外すのが原則である。

  1. 〔取締役会と内部監査部門の関係〕
  2. ・ 取締役会が内部監査部門を統括することを原則にすると、評価が恣意的になる可能性が小さくなる。
  3.  例1 監査報告を取締役会に対して行う。
      それでも、個々の役員に対する内部監査担当者の「忖度」は、排除しきれない。
  4.  例2 内部監査結果の第一次報告先を社外取締役にする。
      社長等のトップによる隠蔽工作を防止できる可能性が高くなる。
  5. (注)「内部監査基準[8]」は、「内部監査部門は、組織上、最高経営者に直属し、職務上取締役会から指示を受け、同時に、取締役会および監査役(会)または監査委員会への報告経路を確保しなければならない。」(2.2.1)としている。
  6.   (筆者の見方)  内部監査部門が最高経営者(通常は社長)に直属すると、最高経営者の意向を汲むことが避けられず、トップの暴走が止まらない可能性が大きい。これを回避する仕組みが要る。
  7. ・ 上場会社は「内部監査部門と取締役(略)との連携を確保すべきである」[9]
     
  8. 〔監査役等が考えている内部監査部門との連携〕
  9. ・「監査役等の機能発揮のため、内部監査部門の活用を図ることが有効である。(略)内部監査部門から業務執行ラインに加えて監査役等にも直接のレポートライン(報告経路)を確保し、とりわけ経営陣の関与が疑われる場合にはこちらを優先することを定めておくことが検討されるべきである。」[10]
  10. ・「監査役等と会計監査人との連携と比較した場合の、監査役等と内部監査部門の連携の相対的弱さ[11]」があり、監査役は「内部監査部門等と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査を実施するよう努める[12]」ことを更に具体化すべきという考え方がある。
  11. ・ 上場会社は、内部監査部門と(略)監査役との連携を確保すべきである。[13]
  12. ・ 監査役は、内部監査部門等と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査を実施するように努めるとともに、内部監査部門等から監査計画・監査結果の報告を定期的に受け、必要に応じて調査を求める。[14]
  13. ・ 内部監査基準(5.5.1)は、「内部監査部門長は、適切な監査範囲を確保し、かつ、業務の重複を最小限に抑えるために、(略)監査役(会)または監査委員会等との連携を考慮しなければならない。」としている。
     
  14. 〔監査人(公認会計士)が考えている内部監査部門との連携〕
  15. ・ 監査人(公認会計士)は、「内部統制の基本的要素であるモニタリングの一部をなす企業の内部監査の状況を評価した上で、内部監査の業務を利用する範囲及び程度を決定しなければならない。[15]
  16. ・ 監査人は、企業の内部監査の結果が監査人の監査の目的に適合するか否か、内部監査の方法・結果が信頼できるか否かを評価した上で、利用の可否を判断する。[16]
  17. ・ 監査人(公認会計士)が監査証拠を入手するために「内部監査人の作業の利用[17]」を行うにあたっては、監査人の責任について具体的に検討する必要がある。内部監査人の作業を利用したことによって監査人の責任が軽減されるものではなく、作業の利用にあたっては、利用の可否・利用する領域・利用の程度を判断しなければならない。
     

 ③ 内部通報受付窓口

 不正発見の端緒となる内部告発を受け付ける窓口である。

 内部通報制度の責任者は、多くの企業で「経営トップ(社長等)」又は「取締役・執行役その他の役員等(監査役・監査役会を除く)」が務めており[18]、調査結果や是正措置(案)等の最終報告先はこれらの者となる。

 現状では、通報の多くが職場・労働環境に関するもので、一部に、企業規範から逸脱するその他の行為に関する情報が含まれている[19]

 窓口では、通報を内容別に区分し、それぞれの分野の知識・経験を持つ者が対応する。窓口の責任者及び担当者は、違法行為の有無を調査し、違法行為に関与した者の責任を検討(場合によっては、追及)することになるので、厳格な中立性と独立性が求められる。

  1. (注) このため、窓口機能を外部の法律事務所(顧問関係にない事務所)に委託する例もある。

 内部通報受付窓口は、調査結果の報告方法と(必要な場合の)是正措置の検討の方法において内部監査と共通する点が多く、企業の実務では、情報収集と運営の体制・ルールを特別に設けた「内部監査機能の一部」と考えることができる。

  1. (注) 内部通報の中で公益通報者保護法に該当する情報は、企業内で違法行為が是正されない場合に、その情報を社外に流出させることを促している。この点で、内部監査において取り扱われるその他の情報と異なる。

 守秘義務の壁 

 通報者や通報の対象となった者(被通報者)の個人情報をはじめとする通報に関する秘密を取扱うことになるので、秘密保持の重要性について、経営幹部・全従業員に周知徹底する必要がある。特に、通報者の所属・氏名等が職場内に漏れることはそれ自体が通報者に対する重大な不利益となり、通報を理由とする更なる不利益な取扱いにもつながり、内部通報制度への信頼性を損ない、経営上のリスクに係る情報の把握が遅延する等の事態を招くおそれがあるので、厳に避ける。具体的には、次の1) 、2) のような秘密保持の措置を講じるとともに、3) 通報ルートを工夫してコンプライアンス経営の徹底を図る[20]

  1. 1) 情報共有が許される範囲を必要最小限に限定する、通報者の特定につながり得る情報(所属・氏名・事案が通報を端緒とするものであること等)は、通報者の書面・電子メール等による明示の同意がない限り情報共有許可範囲外に開示しない、この同意を取得するときは、開示する目的・範囲・氏名等の開示により生じ得る不利益を明確に説明する、何人も通報者を探索してはならないことを明確にする、以上を経営幹部・全従業員に周知徹底する。
  2. 2) 実効的な調査・是正措置を行うために、経営幹部・調査協力者等に対して通報者の特定につながり得る情報を伝達することが真に不可欠であるときは、通報者からの上記同意の取得に加えて、伝達範囲を必要最小限に限定する、 伝達相手に予め秘密保持を誓約させる、当該情報漏えいは懲戒処分等の対象となる旨の注意喚起をする等の措置を講じる。
  3. 3) 通常の通報対応の仕組みのほかに、経営幹部から独立性を有する通報ルート(社外取締役や監査役等への通報ルート等)を併設して通報受付・調査是正を行うのが効果的である。

 利益相反の壁 

 特定の案件について利益相反関係を有する責任者及び担当者は、その案件に関与することを避けるべきである。調査開始後に利益相反関係を有することが判明した責任者又は担当者は、判明した時点で調査メンバーから外れ、必要に応じて適切な者が代わる。

  1. (注) 通報の受付や事実関係の調査等の業務を外部委託する場合は、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間専門機関等の起用を避ける。[21]


[1] 会社法362条2項1号、2号

[2] 会社法363条2項は、「代表取締役」及び「会社の業務を執行する取締役」の報告を義務付けている。

[3] 会社法365条1項(取締役会設置会社においては取締役会の承認を要す)、356条1項2号(株主総会の承認を要す)

[4] 会社法327条の2。会社法施行規則74条の2第1項・124条2項。東京証券取引所有価証券上場規程436条の2第1項は「1名以上の独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役)の確保」を求める。東京証券取引所コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日)原則4-8は、「上場会社は(略)独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。」としている。なお、独立社外取締役には、1会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値を向上、2経営陣幹部の選解任・取締役会の重要な意思決定、3会社と経営陣・支配株主等の間の利益相反を監督、4ステークホルダー(少数株主他)の意見を取締役会に反映、することが期待されている。(同原則4-7)

[5] 東京証券取引所コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日)補充原則4-13③

[6] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)監査役監査基準16条(社外取締役等との連携)

[7] 「監査基準の改訂に関する意見書 一経緯、二主な改訂点とその考え方1「監査上の主要な検討事項」について(4)「監査上の主要な検討事項」の記載」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)

[8] 一般社団法人日本内部監査協会 2014年改訂

[9] 東京証券取引所コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日)補充原則4-13③

[10] 「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(略称、グループガイドライン)4.5」2019年6月28日策定 経済産業省

[11] 「『監査役等と内部監査部門との連携について』平成29年(2017年)1月13日 公益社団法人日本監査役協会 監査法規委員会」の記載。同レポートは、あるべき連携として、1内部監査部門から監査役等への報告、2内部監査部門への監査役等の指示・承認、3内部監査部門長の人事への監査役等の関与、4内部監査部門と監査役等との協力・協働、の4点を提言している。

[12] 公益社団法人日本監査役協会「監査役監査基準37条」

[13] 東京証券取引所コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日)補充原則4-13③

[14] 日本監査役協会(平成27年7月23日)監査役監査基準37条(内部監査部門等との連携による組織的かつ効率的監査)

[15] 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準 Ⅲ.4.(6) 」(平成23年3月30日 企業会計審議会)

[16] 「監査基準 第三実施基準 四他の監査人等の利用1、3」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)

[17] 日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」2019年6月12日

[18] 「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査 報告書(消費者庁)」によれば、「内部通報制度の責任者」は次の通りである(単一回答)。経営トップ(社長等)42.1%、取締役・執行役その他の役員等(監査役・監査役会を除く)32.5、担当部門長(役員以外)15.1、グループ会社・親会社の役員等自社以外に所属する者2.7、監査役又は監査役会2.1、その他・無回答5.5。「社内の通報窓口の設置部門(複数回答)」は、総務部門38.7%、法務・コンプライアンス部門32.9、人事部門19.5、監査部門17.0、経営トップ(社長等)直轄11.2が多い。

[19] 前掲脚注「報告書(消費者庁)」によれば、「通報窓口に寄せられた通報の内容(複数回答)」は「職場環境を害する行為(パワハラ、セクハラ等)」が55.0%で最も多く、「不正とまではいえない悩み等の相談(人間関係等)」28.3、「会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)」27.5、「労働基準法等労務上の法令違反(残業代の未払い等)」11.8の順である。

[20] 「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(2016年(平成28年)12月9日 消費者庁)」の「Ⅲ通報者等の保護 1.通報に係る秘密保持の徹底 (1)秘密保持の重要性」及び「Ⅱ内部通報制度の整備・運用 1.内部通報制度の整備 (2)経営幹部から独立性を有する通報ルート」 

[21] 前掲脚注「民間事業者向けガイドライン」の「Ⅱ.1.(3)利益相反関係の排除」を参照

 

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