◇SH2956◇公取委、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」の改定 山田祐大(2020/01/09)

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公取委、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び
「企業結合審査の手続に関する対応方針」の改定

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 祐 大

 

1 はじめに

 公正取引委員会は、令和元年12月17日、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(以下「本ガイドライン」という。)及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」を改定した。

 本改定に至った経緯・趣旨としては、近年のデジタル分野の企業結合案件に的確に対応する必要性が高まってきており、成長戦略実行計画(令和元年6月21日閣議決定)[1]がイノベーションを阻害することがないよう留意しつつ、データの価値評価を含めた企業結合審査のためのガイドラインや法整備を図る必要性を指摘したこと等を踏まえたものとされる。公正取引委員会は、同年10月24日に本ガイドライン等の原案を公表してパブリックコメント手続に付し、その提出意見等を検討して今回の改定に至った。本ガイドライン改定のポイントは末尾の【表】のとおりであるが、本稿では特にデジタルサービスの特徴を踏まえた本ガイドラインの考え方を紹介したい。

 

2 デジタルサービスの特徴を踏まえた改定後の本ガイドラインの内容

 本ガイドラインは、一定の取引分野の画定の基本的考え方に関し、複数の需要者層が存在する多面市場を形成するという特徴を持つプラットフォームの場合には、それぞれの需要者層ごとに一定の取引分野を画定するという基本姿勢を前提としている。この前提の下に、プラットフォームが異なる需要者層の取引を仲介することにより「間接ネットワーク効果」が強く働くような場合には、それぞれの需要者層を包含した一つの一定の取引分野を重層的に画定する場合があるということを明記した。この「間接ネットワーク効果」とは、異なる市場の一方の市場が一定数の需要者を確保することそれ自体により他方の市場における商品の価値が高まり、その結果当事会社グループの他方の市場における競争力が高まるような場合とされている(例えば、ホテル予約サイトでは、ホテル側は利用者がなるべく多いサイトに登録する一方で、利用者側は登録ホテルがなるべく多いサイトを利用する。)。なお、同ガイドラインの改定前の事例であるが、「エムスリー株式会社による株式会社日本アルトマークの株式取得事例」[2](令和元年10月24日審査結果公表)は需要者層ごと(製薬会社・医師ごと)に一定の取引分野を画定している事例として参考となる。

 また、本ガイドラインは、水平型企業結合における競争の実質的制限の有無について、直接ネットワーク効果が働く場合には、同効果も踏まえて企業結合が競争に与える影響について判断するとし、シングル・ホーミングの場合(需要者の多くが一つのサービスしか利用しない場合)には、マルチ・ホーミングの場合(需要者の多くが複数のサービスを同等に利用する場合)と比較して、直接ネットワーク効果が競争に与える影響は大きいとしている。なお、「直接ネットワーク効果」とは、企業結合後に当事会社グループが一定数の需要者を確保することそれ自体により商品の価値が高まり、その結果同グループの商品の需要者が更に増加すると見込まれる場合とされている(例えば、複数のインターネットオークションサイトが一つに統合されれば、それ自体により出品される点数も落札しようとする者も増大することとなる。)。

 

3 今後の企業結合について

 このように、改定後の本ガイドラインは、デジタルサービスの特徴を踏まえながらデジタル市場の実態に即して企業結合を審査しようとする姿勢が見て取れる。もっとも、事業者にとってある種のデータが競争上どのような意味を持つかは予見しがたい場合もあり得るところであり、競争上の重要性等に対する意識が十分ではなかった保有データが企業結合審査の段階で競争制限効果を生じさせると評価されてしまうことにより、想定していなかった問題解消措置を取らざるを得なくなるなどといった事態が生じることが予想される。

 この点、本ガイドラインは、データの競争上の重要性等の評価の考え方を明記した。具体的には、垂直型又は混合型企業結合の競争制限の有無に係る分析の方法という文脈で一方当事会社における①保有・収集データの種類、②保有データの量、データ収集の範囲③データ収集の頻度、④保有・収集するデータが、他方当事会社の商品市場におけるサービス等の向上にどの程度関連するのかといった点を考慮に入れるとした上、一方当事会社が保有・収集するデータが、他方当事会社の商品市場の競争者が入手可能なデータと比較して、上記①~④の観点からどの程度優位性があるのかを考慮するとしている。

 事業者が、企業結合審査の対象となる企業結合の実施を検討するに際しては、自らが保有・収集するデータを上記観点に照らして評価しつつ、当事会社の保有・収集するデータの競争上の重要性等を検証することが肝要である。無論、今後、企業結合の審査事例等が公表されれば、それも参酌すべきことは言うまでもない。

以上


【表[3]

1 一定の取引分野の画定
  1. ⑴ デジタルサービス等の特徴である多面市場の場合の考え方の明記
  2. ⑵ 価格ではなく品質等を手段とした競争が行われている場合の考え方の明記
  3. ⑶ デジタルサービス等の商品範囲・地理的範囲の画定に当たっての考慮事項の明記
2 競争の実質的制限(水平型企業結合)
  1. ⑴ 研究開発を行っている企業が企業結合を行う場合の考え方の明記
  2. ⑵ デジタルサービスの特徴(多面市場、ネットワーク効果、スイッチングコスト等)を踏まえた競争分析の考え方の明記
  3. ⑶ 複数事業者による競争を維持することが困難な場合の考え方の明記
3 競争の実質的制限(垂直型企業結合・混合型企業結合)
  1. ⑴ データが市場で取引され得るような場合の他社へのデータの供給拒否等の考え方の明記
  2. ⑵ データ等の重要な投入財を有するスタートアップ企業等を買収することによる新規参入の可能性の消滅の考え方の明記
  3. ⑶ データの競争上の重要性等の評価の考え方の明記

 

 



[3] 令和元年12月17日付け公正取引委員会作成の「「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」の改定の概要」を加工したもの
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/01/kaiteigaiyo.pdf

 

 

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