◇SH2240◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(19) 那須勇太(2018/12/10)

未分類

法務担当者のための『働き方改革』の解説(19)

定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~長澤運輸事件判決の概要~

TMI総合法律事務所

弁護士 那 須 勇 太

 

Ⅶ 定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~長澤運輸事件判決の概要~(2)

4 最高裁判決の概要

 長澤運輸事件の最高裁判決(本稿において「本判決」と表記する。)は、精勤手当相当金額に関するN社の不法行為に基づく損害賠償支払義務を認め、また、超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれなかったことによる損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため、この点を原審に差し戻した。

賃金項目 結論 判断理由

能率給

 及び

職務給

  1. ・ Bらの基本賃金の額は、いずれも定年退職時における基本給の額を上回っている。
  2. ・ 再雇用社員の歩合給に係る係数は、正社員の能率給に係る係数の約2倍~3倍に設定されている(これにより、労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されている)。
  3. ・ Bらの基本給及び歩合給の合計金額と、基本給、能率給及び職務給の合計金額(試算)を比較すると、その差額は2%~12%にとどまる。
  4. ・ 再雇用社員は一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、N社はBらに対して2万円の調整給を支給している。
精勤手当 ×
  1. ・ 精勤手当は、従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであり、正社員と再雇用社員の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はない。

住宅手当

 及び

家族手当

  1. ・ 住宅手当及び家族手当は、いずれも労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものである。
  2. ・ 幅広い世代の労働者が存在しうる正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由がある。
  3. ・ 再雇用社員は老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、報酬比例部分の支給が開始されるまでは調整給を支給されることとなっている。
役付手当
  1. ・ 役付手当は、正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものである。
時間外手当 ×
  1. ・ 再雇用社員の時間外手当と正社員の超勤手当との間においては、超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず、再雇用社員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違がある。
賞与
  1. ・ 賞与は、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである。
  2. ・ 再雇用社員は、定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間はN社から調整給の支給を受けることが想定されている。
  3. ・ 再雇用社員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度となることが想定され、再雇用社員の賃金体系は、収入の安定に配慮しながら、労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されている。

※「○」=不合理でない。「×」=不合理である。

 

5 本判決の分析

(1) 労契法20条における不合理性の判断基準

 本判決は、労契法20条における不合理性の判断基準につき、「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日基発0810第2号)第5の6(2)オに記載されている「有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものである」という考え方に沿って、第1審及び第2審と異なり、「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」であると判断した。

 もっとも、本判決は、「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合」もあるから、そのような事情も不合理性の判断に当たり考慮すべきであるとして、個別の賃金項目の趣旨を個別に考慮することでは不十分な場合がありうることを指摘し、その内容を踏まえて不合理性の判断を行っている。ある賃金項目(手当)の中には、他の手当と関連していたり、他の手当内容を踏まえてその支給の有無や金額を決するものも当然にあることからすれば、個別の賃金項目における比較を原則としつつも、「他の賃金項目の有無及び内容を踏まえ」て不合理性を判断する手法には、一定の妥当性があるといえる。

(2) 本件における労働条件の相違の不合理性

 ア 再雇用社員の特殊性

 本判決は、定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえないという原審の判断を是認している上、能率給及び職務給、住宅手当及び家族手当並びに賞与における判断において、老齢厚生年金の受給を労契法20条の不合理性を否定する理由として挙げている。

 このように、本判決は、Bらが再雇用社員であることを最大限に考慮し、その特殊性を踏まえた判断を行っていることを考えると、基本的に、本判決の射程は、再雇用社員以外の契約社員等にまで及ぼすことは難しいと考える。

 イ 能率給及び職務給

 N社においては、再雇用社員に対して、職務給を支給しておらず、能率給の代わりに歩合給を支給している。この点、単に個別の賃金項目を比較すると、N社が再雇用社員に対して職務給を支給していない点のみをもって、直ちに不合理であると判断される可能性があるが、本判決は、

  1. ・ Bらの基本賃金の額は、いずれも定年退職時における基本給の額を上回っていること
  2. ・ 再雇用社員の歩合給に係る係数は、正社員の能率給に係る係数の約2倍~3倍に設定されていること

など、「他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて」不合理性の判断を行った結果、不合理性は認められない、と判断した。

 ウ 精勤手当

 本判決は、精勤手当が、従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励するという点で、ハマキョウレックス事件判決でも紹介された皆勤手当と同趣旨の手当であるとして、再雇用社員と正社員との間でその必要性に相違はないという理由で、再雇用社員に支給されないことは不合理であると判断した。この点は、最高裁が、精勤手当や皆勤手当のような、従業員の出勤を奨励する手当については、再雇用者であろうと、通常の契約社員であろうと、正社員との間で支給の有無を区別することは不合理である、と判断したものといえる。

(3) 今後の実務対応

 本判決が、個別の賃金項目ごとに不合理性を判断しつつも、「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合」があることも指摘していることを踏まえると、仮に、ある賃金項目が支給されていない(労働条件の相違が不合理となる可能性がある)としても、別の賃金項目における支給の内容などにより労働条件の相違に関する不合理性を解消する可能性があることから、ある賃金項目に不合理性が存在するとしても、賃金体系全体の中で、それを代替・補完する関係を適切に構築しておくことが望ましいものと考える。

 

タイトルとURLをコピーしました