製造物責任(PL)法の期間制限に関する改正概要
――期間伸長の内容及び改正理由と、民法改正整備法に基づく経過措置の適用有無――
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
消費者庁は、令和2年1月29日、本年4月1日に施行される製造物責任法一部改正(以下「本改正」という。)の概要について説明する「民法(債権関係)改正に伴う製造物責任(PL)法の一部改正」と題する資料(以下「本資料」という。)を公表した。
本改正前の製造物責任法5条1項においては、製造物責任に基づく損害賠償請求権の行使期間にかかる制限につき、①短期消滅時効として、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間行わないときは時効によって消滅する旨が定められる(同項前段)とともに、②長期の権利消滅期間として、製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したときも権利が消滅する旨が定められていた(同項後段)。また、③上記②の長期の権利消滅期間の起算点の特例として、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する旨も定められていた(同条2項)。
本改正は、上記のうち①及び②の点に関する改正であって、いずれも被害者救済の観点から、製造物責任に基づく損害賠償請求権の行使可能期間を伸長するものである。
第一に、上記①の点に関する改正として、本改正後の製造物責任法5条2項では、人の生命又は身体を侵害した場合における損害賠償の請求権の消滅時効期間について、(知った時から3年ではなく)「知った時から5年」とする旨の規定が新設された。本資料では、改正理由について、(i) 人の生命又は身体という利益は、財産的な利益と比べて保護すべき度合いが強く、これに関する損害賠償請求権は権利行使の機会を確保する必要性が高いこと、及び(ii) 生命又は身体について深刻な被害が生じた後、通常の生活を送ることが困難な状況に陥るなど、被害者の速やかな権利行使が困難な場合が少なくないこと、と説明されている。
第二に、上記②の点に関する改正として、本改正後の製造物責任法5条1項2号では、製造物責任に基づく損害賠償請求権に関する長期10年の権利消滅期間の意味として、「時効によって消滅する」こと、つまり「時効期間」であることが条文に明記された。本資料によれば、本改正前は、この長期10年の権利消滅期間は解釈上、期間の経過によって当然に権利が消滅し、時効期間とは異なり中断や停止が原則として認められない「除斥期間」と解されていたが、除斥期間と解すると長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情がある事案において、被害者の救済を図ることができないおそれがあることが、改正理由として説明されている。
本改正と同日に施行が予定されている民法改正における(a) 人の生命又は身体を侵害する不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効期間について「知った時から5年」とする改正(改正後民法724条の2)、(b) 不法行為による損害賠償請求権の長期の権利消滅期間(20年)が時効期間である旨が条文上明記される改正(改正後民法724条2号)と平仄を合わせる形での修正ともいえる。
施行日(令和2年4月1日)の時点で本改正前の製造物責任法により時効が完成していない請求権や長期権利消滅期間が経過していない請求権については、本改正後の条文が適用され、本改正後の新法適用に切り替わることによって、権利行使可能な期間も自動的に伸長されるという点に留意する必要がある。もっとも、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号。以下「民法改正整備法」という。)に基づく経過措置によれば、施行日の時点で、時効期間や長期の権利消滅期間が経過している請求権については、本改正前の旧法が適用されることにより、権利行使ができない(民法改正整備法97条)。
本資料では、本改正による期間伸長の内容及び改正理由と、民法改正整備法に基づく経過措置の適用有無が図表等を用いてコンパクトにまとめられている。本改正と同日の施行が予定されている改正後民法下での債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求権に関する期間制限の改正と混同しないように対比する形で、製造物責任法における期間制限の概要を理解し、本改正や民法改正に備えることが考えられよう。
以 上
図1 経過措置の概要①(本資料2頁)
図2 経過措置の概要②(本資料3頁)