◇SH3021◇経産省、「事業再編研究会」を立ち上げる――スピンオフ等による積極的な事業再編を促し、実効的なガバナンスの仕組みを構築するための具体的な方策について検討 藤田浩貴(2020/02/21)

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経産省、「事業再編研究会」を立ち上げる

――スピンオフ等による積極的な事業再編を促し、実効的なガバナンスの仕組みを構築するための
具体的な方策について検討――

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

1 はじめに

 経済産業省(以下「経産省」という。)は、令和2年1月29日、事業再編研究会の立上げを公表した。

 同研究会は、スピンオフ[1]や事業売却等によるノンコア事業[2]の切り出しを中心とした事業再編を促進するためには、経営陣、取締役会(特に社外取締役)及び投資家の3つのレイヤーを通じてガバナンスの力が有効に発揮されることが重要であるとの理解に基づき、ガバナンスの力が有効に発揮される仕組みを構築するための具体的な方策(ベストプラクティス)について検討し、実務指針を取りまとめるために立ち上げられたものである。

 本稿では、事業再編研究会の立上げの背景及び事業再編研究会における検討の方向性等を解説・紹介する。

 

2 背景

⑴ 事業再編の重要性と日本の現状

 AI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの技術を中心とした第4次産業革命により産業構造は急速に変化している。このような変化に対応し、イノベーションによる付加価値創出を通じて生産性の向上を実現していくためには、貴重な経営資源をコア事業の強化や将来の成長事業への投資に集中させていくことが重要と考えられている。

 こうしたコア事業の強化や将来の成長事業への投資を積極的に行うためにも、事業ポートフォリオの見直し、特にスピンオフや事業売却等によるノンコア事業の切出しが重要となる。

 しかし、日本では、このような事業ポートフォリオの見直しは必ずしも十分に行われていないのが現状である。経産省『資料4 第1回事業再編研究会(未来投資会議関連資料)』[3]の2頁及び4頁によれば、日本企業の1社当たりの事業部門数は1990年代以降、横ばいで推移しており、また、スピンオフを活用した分離の件数は2010年から2018年の間で、米国では273件であるのに対し、日本では0件とのことである。

出典:経産省『資料4 第1回事業再編研究会(未来投資会議関連資料)』
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/02/001_04_00-1.pdf

⑵ ガバナンスの重要性

 以上のような日本における事業再編の現状については、経営陣、取締役会(特に社外取締役)及び投資家の3つのレイヤーを通じたガバナンスが重要であると考えられている。特に、自社のコア事業、新規に行うべき事業又は撤退すべき事業を戦略的に見極めることが重要と考えられているが、適切な事業ポートフォリオ管理の仕組み(投資や事業切出し等に関する基準の設定や検討の主体・プロセスの明確化等)を主導的に構築し、その運用の監督を行っていくことが取締役会や社外取締役に求められている。

 

 

出典:経産省『資料5 第1回事業再編研究会(事務局説明資料)』
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/02/001_05_00.pdf

 

3 まとめ

 以上のような背景に基づき、事業再編研究会は、上場企業の中でも「多様な事業分野への展開を進め、多数の子会社を保有してグループ経営を行う大規模・多角化企業」を主たる対象企業として、ガバナンスの力が有効に発揮される仕組みを構築するための具体的な方策等について議論を進め、2020年6月末を目途に「事業再編に関する実務指針(仮称)」(以下「本指針」という。)を作成することを目指していく予定である。

 そして、本指針は、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」[4](以下「CGS ガイドライン」という。)及び「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」[5](以下「グループガイドライン」という。)と並列の関係に位置付けることが想定されており、グループガイドラインの第3章(事業ポートフォリオマネジメントの在り方)の内容を踏まえつつ、特に事業の切出しにフォーカスし、その促進のための具体的な方策やベストプラクティスを示すものと位置付けることが検討されている。

出典:経産省『資料5 第1回事業再編研究会(事務局説明資料)』
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/02/001_05_00.pdf

 今後の事業再編研究会での議論の内容及びその後に作成される予定である本指針の内容について、注目しておく必要があろう。

以上



[1] スピンオフとは、既存の子会社の株式又は切り出した事業を承継させた子会社の株式を、株主に対して、その保有株式数に応じて交付することにより、当該子会社または事業を切り離し、経営を独立させる仕組みをいう。

[2] ノンコア事業とは、必ずしも事業そのものの収益力や成長性が低いというわけではないが、自社グループにとって競争優位性を有する分野でない等の理由で、自社グループ内にあっては十分なリソースが投入されにくいために、相対的に成長可能性が低くなっている事業等をいう。

 

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