公取委、カルバン錠の販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令
岩田合同法律事務所
弁護士 松 橋 翔
1 はじめに
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、2020年3月5日、鳥居薬品株式会社(以下「本会社」という。)に対し、本会社を含むカルバン錠[1]の販売業者らが、独占禁止法(以下「法」という。)第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたとして、法の規定に基づき排除措置命令及び課徴金納付命令を行った旨発表した。
「『不当な取引制限』とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」(法第2条第6項)とされている。そこで、本件では、いかなる点から一定の取引分野における競争を実質的に制限すると判断されたのか等について解説を行う。
2 本件事案の概要
本件事案の概要は、公取委が発表した以下の図の事実関係のとおりである[2]。
すなわち、公取委は、本会社及び日本ケミファ株式会社(以下「日本ケミファ」という。)[3]の2社(以下「本2社」という。)は、薬価改定に伴い改定するカルバン錠の仕切価[4]に関して情報交換を行っていたところ、遅くとも2016年3月5日以降、仕切価の低落を防止し自社の利益を確保するため、本2社のカルバン錠の仕切価を合わせる旨の合意の下に、薬価改定が行われることとなった場合には本2社の営業部課長級の者らによる会合を開催するなどして、カルバン錠の仕切価を同一の価格又はおおむね同一の価格とすることを決定していたという事実を認定し、本2社は、当該合意をすることにより、公共の利益に反して、我が国におけるカルバン錠の販売分野における競争を実質的に制限していたと判断したものである。
3 本件において懸念された競争制限性
本件においては、本2社が、カルバン錠の販売業者であり、我が国において、自社商品としてカルバン錠を販売している事業者が本2社のみであったという事実が重視され、競争制限性が認定されているものと思料される。
すなわち、「競争を実質的に制限する」か否かの判断にあたっては、合意当事者の地位(合意当事者の合計市場シェア等)や合意に参加していない当事者の有無、その行動(協調的か否かなど)など、その市場の客観的状況が重視されるところ、本件では、合意当事者の市場シェアが100パーセントであり、合意に参加していない当事者が存在しないという状況であるため、そのような状況で、本2社が同一又はおおむね同一の価格とすることに同意していたとすれば「競争を実質的に制限する」ことになると判断されたものと思料される。
4 本2社の対応について
本2社のうち、日本ケミファは、2019年1月24日、課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則第1条第1項の規定に基づき、公取委に対して様式第1号による報告書を提出して課徴金減免の申請をするとともに、カルバン錠の自社の営業担当者等に対して他の事業者とカルバン錠の仕切価を話し合って決定すること等を行わない旨の指示を行っている。これは、日本ケミファが2018年に別の医薬品(錠剤)の販売に関して課徴金減免制度の適用を申請した際に過去に遡って実施した社内調査において本件の違反行為が判明したことが契機となっているようである[5]。他方、本会社も本件について課徴金減免の申請を行っているものの、当該申請は公取委の調査開始日以後になされたものと推察される[6]。
このように、本会社と日本ケミファとの間には違反事実に対する対応に差が存在し、これにより、日本ケミファについては、排除措置命令及び課徴金納付命令の対象とされなかった一方で、本会社については、「法第7条第2項第1号に該当する者であり、違反行為が自主的に取りやめられたものではないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」として、排除措置命令及び課徴金納付命令の対象とされている。
5 本件を踏まえた事業者の留意点
事業者は、価格カルテルにおける競争制限性の認定においては、合意当事者の地位(合意当事者の合計市場シェア等)や合意に参加していない当事者の有無、その行動(協調的か否かなど)など、その市場の客観的状況が重視されることを認識するとともに、同じ合意当事者であっても、事後の対応によってその後の行政処分の軽重に差が生じることを認識し、仮にカルテルの存在を認識した場合には、可及的速やかに課徴金減免制度を利用することを検討すべきである。
以上