◇SH0717◇中国:自動車産業独占禁止ガイドライン(パブリックコメント版)(前) 若江 悠(2016/06/30)

未分類

自動車産業独占禁止ガイドライン(パブリックコメント版)(前)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

 中国の自動車販売市場は、米国を上回る世界最大のマーケットであるが、独占禁止法の分野で当局により最も活発に摘発が行われている業界でもある。2014年に日系の自動車部品メーカーに対しカルテル等に関して多額の課徴金が課されたことは今でも記憶に新しいが、その後も、主に外資系の完成車メーカーやディーラーに対する処罰が行われてきているし、公表されている以外にも、当局による同業界に対する重点的な調査が継続しているといわれている。他方で、中国の独占禁止法の規定は非常に抽象的な規定が多く、日本の公正取引委員会が出している各種ガイドラインに相当する文書もこれまで公表されていなかった。そのため、当事者としては、具体的な行為が法律違反になるのかならないのか、適用免除や例外にあたるのかあたらないのか、悩ましい判断(そして結果として過度に保守的な対応)を強いられることも多かった。また、明確な規定及びガイドラインがないことから、当局による統一的な判断が期待できないことも、不確実性を高めていた。

 2016年3月23日、中国の国家発展改革委員会(NDRC)により「自動車産業独占禁止ガイドライン」のパブリックコメント版(以下「ガイドライン案」という。)が公布された。ガイドライン案は、今後のパブリックコメント手続及びさらなる当局での検討を経て内容が確定次第、正式なガイドラインとして公布されることになる。ガイドラインは「規範性意見」に該当し、法律拘束力はないものであるが、自動車産業の独占行為に関して中国の独禁法執行機構が発行するガイドラインとして、今後の執行において参照されることは確実であり、完成車メーカーのみならず、部品メーカーやディーラー、補修業者を含めた自動車産業の事業者の経営活動にとって重要な指導的意義をもつことになる。

 また、自動車産業を対象とするガイドラインではあるが、独占禁止法の実体法解釈について踏み込んで記載している部分が多く含まれ、他の産業にも応用されうるNDRCの考え方をうかがい知ることができる。例をあげると、地域制限及び顧客制限すなわちメーカーが販売代理店との間の代理店契約において当該代理店は一定の地域において又は一定の顧客に対してしか販売できない旨の制約を付する行為(日本でいう帳合取引等にあたる)については、事業者(メーカー)が支配的地位を有することを前提として適用される支配的地位の濫用については一定の規定(独禁法17条1項4号等)があったのに対し、独禁法14条に定める垂直的独占協議にそもそもあたりうるのかは明文の規定がなく(再販売価格に関する制限は明文の規定がある(同条1号及び2号)が、3号の「国務院独占禁止法執行機構が認定するその他の独占合意」には何が含まれるかについては、同法にも、国家工商行政管理総局の「独占合意行為禁止規定」等の関連規定でも明らかにされていなかった。)、また、あたるとしても、どのような場合に15条に定める適用除外にあたるかも不明であった。ガイドライン案では、まず、地域制限・顧客制限は一般的には垂直的独占合意にあたりうることを明確にしており、その上で、市場で著しい力量がない事業者が設定する顧客制限や地域制限に効率性向上効果と正当化理由がある場合には(例えば、一定の各販売代理店が他の販売代理店の顧客リストに含まれる顧客に対し能動的に売り込むことを禁じ、受動的な注文を受け付けることは許容するのであれば)、通常15条の適用除外にあたる、といった考え方が示されており、興味深い。もちろん本ガイドラインは自動車産業の構造を前提に規定されたものではあるが、他の産業にも同じ議論はある程度成り立つはずであり、NDRCがその執行において類似の考え方を採用する可能性はあるというべきであろう。

 このように、ガイドライン案は自動車産業以外の日系企業においても大いに研究する価値があるものと考える。

 

タイトルとURLをコピーしました