中国:消費者権益保護法の大改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若江 悠
1 「国際消費者権利デー」
中国で仕事をしていると、自分が知らなかった「国際的祝日」の存在に気づかされることがある。かつては日本と同じく5月初めが長期休暇となっていたメーデー(労働節。今では実質5月1日のみが休み)は有名だが、国際女性デー(3月8日。女性だけ半休)、国際子どもの日(日本の子どもの日と違い6月1日)などは、知らない日本人も多いのではないだろうか。「国際」と冠されているこれらの祝日は中国人からすれば世界共通と思っているから、むしろ知らないことを不思議がられる。
そのような「国際的祝日」の一つとして毎年盛り上がりをみせるのが、3月15日の「国際消費者権利デー」である。中でも中国中央テレビがその日に放映する「3.15晩会」と呼ばれる特別番組は、消費者の権利を侵害する(とされる)企業を大々的に告発する。ご多分にもれず外資企業には特に辛辣な報道がされることが多い。特に消費者向けビジネスを行う日本企業にとって、世界最大の市場である中国での事業展開は最も重要な経営課題だが、高まる権利意識を前に適切な対応をしなければ、市場からの撤退を迫られる可能性すらある。
2 消費者権益保護法の改正
そして今年2014年3月15日は、消費者権益保護法の施行から満20年であり、同日を施行日として同法の大規模改正が行われた。日本の消費者契約法等では手当されていないようなものを含む強力な消費者保護制度がいくつも含まれている。特に注目すべきポイントを紹介したい。
- ① 三包責任:改正前は、特別法により一定の製品(テレビ、自動車等)のみを対象として品質問題のある製品の修理、交換及び返品の責任(「三包責任」)が課されていたが、改正法では、一般的に三包責任が課せられることになった。
- ② クーリングオフ:インターネット、テレビ、電話、郵便等の方法で販売される商品について、受領日から7日以内は消費者に無理由返品を認めるクーリングオフ制度が初めて設けられた。
- ③ プラットフォーム提供者の責任:自らは製品の販売又はサービス提供を行わないオンラインショッピングモール等のプラットフォーム提供者であっても、(a) 販売者等の真の名称や連絡先等を消費者に提供できない場合や、(b) 販売者等による権利侵害を知り又は知り得たにもかかわらず必要な措置をとらなかった場合には、消費者に対し直接損害賠償責任を負いうることとされた。
- ④ 広告事業者の責任:類似したポイントとして、広告事業者及びその発表者は、消費者の生命及び健康にかかわる製品又はサービスの虚偽の広告を設計、制作、発表して消費者に損害を与えた場合、当該製品又はサービスを提供した事業者と連帯して責任を負う。また、虚偽の広告等に出演して対象の製品又はサービスを推奨し、消費者に損害を与えた者にも連帯責任が課せられる。いずれも一般不法行為責任を超えた法定責任である。
- ⑤ 個人情報保護:一般的な個人情報保護法制ではないが、消費者の権利として個人情報の保護に関する事業者の義務を規定し、謝罪、損害賠償を含め、違反した事業者の行政責任を規定した。
- ⑥ 約款規制が明確化・強化された。
- ⑦ 懲罰的損害賠償:詐欺行為の場合について消費者が支払った対価の三倍賠償、欠陥を認識しつつ製品等を提供し消費者の死亡又は著しい健康被害をもたらした場合について損害の二倍賠償が定められた。
- ⑧ 消費者協会による公益訴訟
いずれも、消費者保護という立法目的を実現するために、かなり踏み込んだ改正がなされているといえよう。抽象的な規定も数多くあり今後の運用次第の面も残るが、今後の動向を注視する必要がある。