◇SH0017◇最一小判 平成26年4月24日 執行文付与請求事件(金築誠志裁判長)

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 1 本件は、被上告人Yにつき破産手続が終結し免責許可決定が確定した後、Yに対し確定した破産債権を有していた上告人Xが、当該破産債権が破産法253条1項2号の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当すると主張して、Yに対し、当該破産債権が記載された破産債権者表について提起した執行文付与の訴えである。

 2 1審及び原審は、X主張の債権が破産法253条1項各号に掲げる非免責債権に該当するか否かは、執行文付与の訴えの審理の対象とはならないから、本件訴えは不適法である旨判断して、本件訴えを却下すべきものとした。

 Xは、上告受理申立てをし、非免責債権が記載された破産債権者表に基づいて強制執行を実施するため、民事執行法33条1項を適用又は準用して、破産債権者表について執行文付与の訴えを提起することができると解すべきである旨主張した。なお、Xは、原判決言渡し後、破産裁判所の裁判所書記官に対し、単純執行文の付与の申立てをしたが、免責許可決定の確定を理由に付与を拒絶された。これに対し、Xは、執行文付与拒絶に対する異議の申立て(民事執行法32条1項)をしたが、破産債権者表が有する執行力は免責許可決定が確定することにより失われ、このことは破産債権者表に記載された破産債権が非免責債権であっても異ならないとの理由で、異議申立ては棄却された。

 本判決は、本件のような執行文付与の訴えは許されないとの判断を示して、Xの上告を棄却した。

 3 裁判所書記官は、届出のあった破産債権について破産債権者表を作成し(破産法115条1項)、破産債権の調査の結果を破産債権者表に記載しなければならない(同法124条2項)。そして、異時廃止決定若しくは同意廃止決定が確定したとき、又は破産手続終結決定があったときは、破産手続において確定した破産債権については、破産者が破産手続中で異議を述べていない限り、破産債権者表の記載は、破産者に対し、確定判決と同一の効力を有し、破産債権者は、確定した破産債権について、当該破産者に対し、破産債権者表の記載により強制執行をすることができる(同法221条)。すなわち、このような場合、破産債権者表が債務名義となり(民事執行法22条7号)、破産債権者は、執行文の付与を受けて、強制執行をすることができる。

 もっとも、個人破産の場合、破産手続開始の申立てと共に免責許可の申立てがされているのが通常であり(破産法248条4項参照)、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行をすることはできない(同法249条1項)。そして、当該破産者につき免責許可決定が確定すると、当該破産債権が非免責債権に該当しない限り、破産者は、破産手続による配当を除き、当該破産債権についてその責任を免れる(破産法253条1項)。そして、免責許可決定が確定した場合において破産債権者表があるときは、破産債権者表に免責許可決定が確定した旨が記載される(同条3項)。これにより債務名義である破産債権者表の記載自体から、少なくとも非免責債権を除く債権については、執行力が失われていることが明らかとなる。

 4 免責許可決定の確定後に、破産債権者が、破産債権者表に基づき強制執行をすることができるか、そのために執行文の付与を申し立てることができるかについては争いがあり、この点を直接的に判示した判例及び裁判例は見当たらない。学説上は、大要、免責許可決定の確定後はおよそ破産債権者表に基づく強制執行は許されず、執行文の付与を求めることもできないとする見解(A説)、免責許可決定の確定後も、破産債権者は、一般的に破産債権者表に基づき強制執行をすることができ、したがって、執行文の付与を求めることもできるとする見解(B説)、③免責許可決定の確定後も、非免責債権については破産債権者表に基づき強制執行をすることができるとする見解(C説)がある。また、C説を前提に、どのような手続により執行文の付与を受けることができるかについても争いがあり、通常の執行文付与の手続と同様、裁判所書記官において単純執行文を付与することができるとする見解(C1説。旧破産法下の文献であるが、中野貞一郎ほか編『基本法コンメンタール破産法〔第2版〕』(1997)305頁(栗田隆執筆))がある一方、この場合裁判所書記官の審査が困難であることを理由に、執行文付与の訴えによるべきであるとする見解(C2説。伊藤眞ほか『条解破産法』(弘文堂、2010)1607頁)も主張されている。実務上の取扱いも、執行文付与の申立てがあっても執行文を付与しないという取扱いと、得られた資料の範囲内で非免責債権と判断されるものについては、裁判所書記官において単純執行文を付与し、免責の効力が及ぶか否かの最終判断は、破産者が提起する請求異議訴訟に委ねるという取扱いに分かれている状況であった。

 5 このような中、本判決は、C2説を採用しないことを明示的に判示したものである。

 本判決は、本件のような執行文付与の訴えが許されない理由として、執行文付与の訴えについて規定した民事執行法33条1項の文言に照らし、その審理の対象は、同法27条1項にいう債権者の証明すべき事実の到来の有無又は同条2項にいう債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のために強制執行をすることの可否に限られ、破産債権者表に記載された確定した破産債権が非免責債権に該当するか否かを審理することは予定されていないとした。これは、民事執行法施行前のものではあるが、執行文付与の訴えにおける審理の対象を条件の成就又は承継の事実の存否のみに限られるとした上で、執行文付与の訴えにおいて請求異議事由を抗弁として主張することは許されないとした最一小判昭和52年11月24日(民集31巻6号943頁)の考え方を踏襲したものと考えられる。

 その上で本判決は、破産債権者表に免責許可決定が確定した旨の記載がされている場合であっても、破産債権者表の記載内容等から記載された確定した破産債権が非免責債権に該当すると認められるときは、裁判所書記官において単純執行文を付与することができるから、債権者には不都合はないと説示し、傍論としてではあるが、C1説に立脚するものである旨明示している。A説は、(ア)破産法253条1項が免責許可決定による免責の効力から非免責債権を除外していること、(イ)破産債権者表の記載内容等から非免責債権であることを容易に認めることができる場合もあり、このような場合にまで給付の訴えを提起して認容判決を得るなどしなければ強制執行することができないとするのは、破産手続において異議を述べれば破産債権者表に執行力が付与されることを阻止できたのにそれをしなかった破産者を不当に利することになりかねないこと、(ウ)A説は、破産裁判所は破産債権が非免責債権に当たるか否かを判断しないとの原則を前提とするものと考えられるが、破産裁判所が破産債権の非免責債権該当性を判断しないのは、当該破産債権が非免責債権に該当するか否かは破産手続の進行とは無関係であることによるものであって、破産手続が終局した後の執行文付与の段階にまで上記の原則が妥当するかは疑わしいことに照らすと、にわかに採用し難いように思われる。他方、B説は、非免責債権に当たらない債権については破産債権者表の記載から執行力が失われていることが明らかであるにもかかわらず、当該破産債権者表に執行文を付与できるとするのは、執行文を付与するか否かの審査に当たり、債務名義の効力が失われたり執行力が排除されたりしていないかの判断を裁判所書記官に委ねた民事執行法26条の趣旨に反することとなり相当でないということができる。本判決の上記説示は、本件のような場合において単純執行文を付与することができるかについて実務上の取扱いが分かれていたところ、以上の点を踏まえて、実務上の指針を示したものと考えられる。

 6 本判決の立場を前提とすると、Xは、破産事件の記録のある裁判所の裁判所書記官に対し、単純執行文の付与を申し立て、同書記官において破産債権者表に記載された破産債権が非免責債権であることが認められれば、執行文が付与されることになる。執行文付与を拒絶された場合、その処分に不服があれば、Xは、執行文付与拒絶に対する異議申立てをすることができる(本件でXがした執行文付与拒絶に対する異議申立ては一度決定により棄却されたが、この棄却決定の判断に既判力はない。)。なお、破産債権者表等の記載からその債権が非免責債権であるとは認められず、執行文の付与を受けられない場合、別途当該破産債権に基づく給付訴訟を提起し、当該債権が非免責債権であることを主張立証することができることはいうまでもない。

 7 本判決は、免責許可決定の確定後、確定した破産債権を有する債権者が、当該破産債権が非免責債権に当たることを理由として、当該破産債権が記載された破産債権者表に基づき強制執行をすることができるか、また、このような場合に執行文の付与を受けるための手続について、最高裁が初めて明示的な判断を示したものであり、実務的に重要な意義を有すると考えられることから、紹介する次第である。

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