ベネッセコーポレーション、「個人情報漏洩に関するお知らせとお詫び」のページを開設
岩田合同法律事務所
弁護士 臼 井 幸 治
株式会社ベネッセコーポレーション(以下「ベネッセ」という)は、7月9日、同社がデータベースに保管していた顧客情報約760万件が外部に漏洩したことが確認されたとしてリリースを行い、その後外部専門家をトップとする「個人情報漏洩事故調査委員会」を発足し、また、7月17日には再発防止策をまとめた報告書を経済産業省に提出するなど、情報漏洩への対処に追われている。
ベネッセのリリースによれば、ベネッセのグループ会社である株式会社シンフォームの業務委託先の元社員が、担当業務のために付与されていたアクセス権限により、ベネッセの顧客情報が保存されたデータベースにアクセスし、不正に顧客情報を社外に持ち出し、名簿事業者に売却していた(不正競争防止法違反)との理由で、7月17日、警視庁に逮捕されたとのことである。このようにベネッセは、顧客の情報という営業秘密を不正な手段で侵害されたという点において被害者であり、営業秘密を侵害して情報を漏洩した者や、その者を雇用していた委託先の企業等に損害賠償請求を行うことができる立場にある。
他方、ベネッセは、漏洩された情報の主体である顧客との関係においては、個人情報を流出させた者との間に実質的な指揮監督関係があることが立証された場合等には、使用者責任(民法715条)等の法律構成に基づき損害賠償責任を負う可能性がある。
個人情報漏洩に対する損害賠償(慰謝料)としては、過去の裁判例においては、顧客1件あたり1万円ほど認められた事案もあり、内容がセンシティブな情報であるほど慰謝料額が増加するものと考えられるところ、7月21日までのベネッセのリリースによれば、ベネッセから漏洩した情報は、顧客である保護者及びその子の氏名、住所、電話番号、子の生年月日、性別等の他、一部の顧客については出産予定日及びメールアドレスまで流出している可能性があるとのことであり、一定程度センシティブな情報が漏洩したことが窺われる。
このような損害賠償の他、企業の信用力の低下、ブランドイメージの毀損等、企業の経営に影響を及ぼす被害も想定されるところであり、同種事例においては、再発防止のための対応を行うほか、顧客に対し一定のお詫び金を支払う例も多く、ベネッセにおいても、顧客へのお詫び対応として200億円もの原資を準備することを決定している。
ベネッセのような事例は今後他社においても起こり得る事象であり、他企業においては、個人情報取扱事業者として、個人情報漏洩防止等のために必要かつ適切な措置を講じ、委託先への管理を徹底する必要があるとともに、不幸にも事故が発生した場合には、事後的な対応を適切に行う必要があることをあらためて認識させられるところである。
以上
過去の主な裁判例
判決 |
漏洩した情報の内容 |
認められた慰謝料額 |
大阪高裁平成13年12月25日判決
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市の住民基本台帳のデータ(氏名、性別、生年月日及び住所、転入日、世帯主名及び世帯主との続柄) |
1人あたり1万円
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東京高裁平成16年3月23日判決
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学籍番号、氏名、住所及び電話番号の各記入欄のある名簿
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1人あたり5000円
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大阪地裁平成18年5月19日判決
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住所、氏名、電話番号、電子メールアドレス等 |
1人あたり5000円
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(うすい・こうじ)
岩田合同法律事務所弁護士。2001年慶應義塾大学卒業。2006年弁護士登録。メガバンク及び大手総合商社法務部への出向等、企業における実務経験も豊富。企業法務全般、訴訟紛争解決、組織再編、再生可能エネルギーに関連するファイナンス組成等、幅広い分野に対応。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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