株主総会における会社提案議案(取締役選任)を可決する決議の取消訴訟の提起
岩田合同法律事務所
弁護士 政 本 裕 哉
株式会社プリンシバル・コーポレーションの平成26年7月25日付リリース(以下「本リリース」という。)によると、同社は、同社の株主より、第69期定時株主総会における第2号議案「取締役7名選任の件」(会社提案)につき、1名を除く6名の取締役就任を可決する旨の決議の取消しを求める総会決議取消訴訟を提起されたとのことである。第2号議案については、会社提案の他に、総会当日に株主の提案により他の者を取締役候補者とする修正動議が上程されている。本リリースから察するに、同社においては経営権を巡る争いが委任状勧誘(プロキシーファイト)に発展し、これがかかる修正動議に結びついていると考えられる。
本リリースによれば、本総会において、(旧経営陣である)議長が委任状勧誘による委任状に係る議決権を無効としたうえで、会社提案の第2号議案が原案どおり承認可決された旨宣言したとのことである。旧経営陣は平成26年6月27日付でその旨の開示を行っているが[1]、その後、新経営陣からは同月30日付でこれとは異なり修正動議が承認可決された旨の開示が行われており[2]、このようにそれぞれ異なる代表者名による異なる内容の開示が行われたことに関し、東京証券取引所から注意喚起がなされているところである。本リリースは、修正動議が承認可決されたことを前提に、新経営陣からなされており、同社は当該委任状に係る議決権は有効であり、かかる修正動議が承認可決されたことは明らかであると認識しているため、原告株主と協力の上、早期に認容判決を受ける意向が示されている。
株主総会の決議取消事由としては、「招集の手続・決議の方法の法令・定款違反又は著しい不公正」(会社法831条1項1号)、「決議の内容の定款違反」(同項2号)、「特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議」(同項3号)が法定されている。この中で、本件で問題となるのは、議長が委任状に係る議決権を無効とした点が、決議の方法の法令違反に該当するか否かであると予想される。
この点、決議の方法の法令違反が争点となった事案である、いわゆるモリテックス事件[3]においては、経営権を巡る争いがある中で、会社提案と株主提案が両立しない関係にある場合に提案株主に対して提出した株主提案に賛成の委任状に係る議決権を会社提案の採決に際して出席議決権に算入しなかったという事実関係につき、当該委任状を提出した株主の意思(会社提案には賛成しない)を推認できることから、会社提案の採決に際して出席議決権に算入しなかったことが法令違反であると判示されている。
なお、キノコ生産大手の雪国まいたけの6月総会においても、会社提案の取締役選任議案が、創業家による修正動議によって覆されるという事態が生じている。
本件の事案では、本リリースのみでは正確な事実関係は明らかではなく、旧経営陣が裁判に関与し事実関係が争われる中で争点も明らかになっていくものと推測される。
決議の方法の法令違反の例示
・株主又は代理人による議決権行使を不当に拒んだ場合
・株主又は代理人でない者が決議に加わった場合
・定款の定めに反して株主でない者が決議に加わった場合
・定足数に達していない場合
・説明義務違反がある場合
・賛否の認定を誤って決議成立を宣した場合
・議案修正動議を無視した場合
[3] 東京地判平成19年12月6日判タ1258号69頁
(まさもと・ゆうや)
岩田合同法律事務所パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録。2009年2月から2010年3月まで米系金融コンサルティングファームであるプロモントリー・フィナンシャル・ジャパンに出向。『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会 2014年)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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