◇SH0092◇宮入バルブ製作所の臨時株主総会決議 伊藤広樹(2014/09/25)

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宮入バルブ製作所の臨時株主総会決議~株主による株主総会の招集請求~

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 本年9月16日、株式会社宮入バルブ製作所において臨時株主総会が開催され、株主提案に係る取締役・監査役の解任等に関する議案が否決された。

 この臨時株主総会は、株主による招集請求を受けて開催されたものであるが、同社では、これに先立つ本年6月27日開催の定時株主総会においても、会社及び株主の双方から取締役の選任議案が提案されていた。結果的に、定時株主総会では、会社提案に係る議案が可決され、株主提案に係る議案は否決されたものの、株主提案に係る取締役候補者と会社提案に係る取締役候補者との賛成割合の差は最少で0.43%と極めて僅少であったところ、臨時株主総会においては、株主から定時株主総会と同一の取締役候補者について取締役選任議案が提案されたことから、その結果が注目されていた。

 会社法上、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6ヶ月前から引き続き保有している株主(但し、非公開会社では議決権保有期間の制限はない。)は、取締役に対して、株主総会の招集を請求することができる(会社法297条1項)。そして、この招集請求を受けた取締役は、招集請求が議決権保有割合等の法定要件を充たしていることを確認した上で、取締役会の決議により、株主総会の招集を決定する(同法298条)。

 ここで、①招集請求後に遅滞なく招集手続がとられない場合、又は、②招集請求の日から8週間以内の日を開催日とする株主総会の招集通知が発せられない場合には、招集請求をした株主は、裁判所の許可を得た上で株主総会を招集することができる(会社法297条4項。なお、学説・裁判例上、裁判所は、招集請求が形式的要件を充たしている限り、権利の濫用であると認められる場合を除き、この許可をしなければならないと解されている。)ことに留意が必要である。そして、この裁判所の許可を得て招集された株主総会については、基本的には株主のイニシアチブで手続が進められると解されており、例えば、招集通知や株主総会参考書類は会社ではなく株主が主導して作成することになり、また、株主総会の議長も一義的には株主が務めることになると解されている。

 

株主による株主総会の招集請求

議決権保有割合:100分の3以上

議決権保有期間:6ヶ月間(但し、公開会社のみ)

               ↓

  • 取締役に対する株主総会の招集請求が可能
  •  一定期間内に株主総会が招集されない場合、裁判所の許可を得た上で、株主総会を招集可能

→  株主総会の主導権を株主が握るリスクに留意!

 

 したがって、取締役が法定要件を充たす招集請求を受けた場合、裁判所の許可に基づいて株主総会が招集されないように、8週間以内に株主総会を開催することが重要であり、そのためには、招集請求を受け次第、速やかに株主総会の準備を進めることが必要となる。しかしながら、株主総会の開催に至るまでには、取締役会による株主総会の招集決議、基準日の設定(基準日設定公告)、招集手続等の法令上必要となる手続のみならず、招集請求が法定要件を充たしているか否かの確認、株主総会の会場の手配、弁護士や証券代行との打合せ、招集通知・株主総会参考書類の作成・発送、議事シナリオ・想定問答集の作成、株主総会のリハーサル等の様々な準備が必要となるため、これらを8週間以内に全て完了させることは、(特に上場会社では)実務上非常に困難であることは言うまでもない。

 本件では、会社の速やかな対応により、会社のイニシアチブの下で株主提案に係る議案が否決されるに至ったが、日常から少数株主の活動が活発であり、かつ、その少数株主が相当程度の議決権保有割合を有するような会社においては、株主から株主総会の招集請求がなされた場合に本件のような迅速な対応が可能となるよう、弁護士や証券代行のアドバイスを受けつつ、予め対応方針・対応マニュアルを作成しておくことが望ましいと言える。

以上

(いとう・ひろき)

岩田合同法律事務所弁護士。2004年早稲田大学法学部卒業。2006年早稲田大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。主にM&A取引、会社法を始めとするコーポレート分野に関するアドバイスを行う。著作には、『会社法実務解説』(共著 有斐閣 2011)、「新商事判例便覧」旬刊商事法務2031号~(共著 商事法務 2014~(連載))等。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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