「全国共通お食事券」を含む標章等の使用中止等を求めた事案で、知財高裁は控訴を棄却
岩田合同法律事務所
弁護士 坂 本 雅 史
知的財産高等裁判所は、平成26年10月30日、「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」を発行する株式会社ジェフグルメカード(以下「原告」という。)が、「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」を発行する株式会社ぐるなび(以下「被告」という。)に対して1000万円の損害賠償及び「全国共通お食事券」を含む標章の使用禁止等を求めた事案について、原告の請求を棄却した原判決を維持し、控訴を棄却する判決を言い渡した。
不正競争防止法は、事業者の公正な競争を図るため、他人の商品として周知されているものと同一又は類似の表示を使用して混同させる行為(「混同惹起行為」。同法2条1項1号)又は著名な他人の商品を自己の商品として販売する行為(同項2号)などを「不正競争」として禁止し、不正競争の差止め(同法3条)及び損害賠償(同法4条)などの規定を設けている。
ある人・企業の商品が周知されるようになると、それ自体で顧客吸引力を持ち財産的価値のある「ブランド」が生まれる。他人の商品と混同させることはこのようなブランドの成長を妨げることになり、また、自己のものとして使用すると他人のブランドに「ただ乗り(フリーライド)」することになる。不正競争防止法は、このような理由で上記2つの行為を「不正競争」としている。登録等がなくても商品の名称等が保護される点が、商標法とは違うところである。
本件で問題となったのは、原告が発行する「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」と、被告が発行する「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」である。原告は被告の商品の名称に含まれる「全国共通お食事券」という標章自体が、原告の商品として周知、認識されているとして、損害賠償と「全国共通お食事券」を含む標章の使用差止等を求めた。原審の東京地方裁判所は、「全国共通お食事券」がそれ自体で原告の商品を示すものとはいえないなどとして原告の請求を全て棄却したところ、原告が控訴した。本判決は、その控訴審であり、原審の判断とほぼ同内容の判断により控訴を棄却している(本判決に対し、原告が上告等を行ったかは不明である)。
本件と同様の事案としては、石屋製菓の「白い恋人」と吉本興業の「面白い恋人」の事件(和解により終了)が社会的耳目を集めたことがあり、そのほか、本年10月14日の最高裁の決定により、「正露丸糖衣A」を販売する大幸薬品が「正露丸糖衣S」を販売するキョクトウに対してパッケージの使用差止等を求めた事件について、大幸薬品の請求を棄却した判決(大阪高判平成25・9・26)が確定している。その他、同種の事案としては以下のものがある。
原告の商品等表示 |
被告の商品等表示 |
裁判の年月日及び結論 |
ソニー株式会社の 「ウォークマン」
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「有限会社ウォークマン」 (商号) |
千葉地判平成8・4・17(認容、控訴審で和解) |
サントリー株式会社の 「サントリー黒烏龍茶OTPP」
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「黒烏龍茶」 (株式会社オールライフサービス、日本ヘルス株式会社の標章) |
東京地判平成20・12・26(損害賠償につき認容。使用差止部分については棄却) |
株式会社かに道楽の 「かに道楽」及び動くカニの看板
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「かに将軍」及び動くカニの看板 (株式会社かに将軍の標章) |
大阪地判昭和62・5・27(認容) |
三菱グループの 「三菱」の名称及び三菱標章(スリーダイヤのマーク) |
①「三菱信販株式会社」 ②「三菱ホーム株式会社」 ③「三菱クオンタムファンド株式会社」 (いずれも商号) |
①知財高裁平成22・7・28(認容) ②東京地裁平成14・7・18(認容) ③東京地裁平成14・4・25(認容) |
(経済産業省作成の「不正競争防止法の概要(平成26年度版)」から抜粋)
本判決は、原告の請求を棄却した原審の判断を維持したものであり、特別に新しい判断が行われているわけではない。
標章の混同等に関する事案においては、本件のように当該標章が原告の商品等であることを表示したものか(そして、それが周知されているもの又は著名なものといえるか)という問題のほかに、被告の標章が原告のものと類似しているかという問題もある。後者については「取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両取引の外観、呼称又は観念に基づく印象、記憶、連想等から、両者を全体的に類似のものとして受け取る恐れがあるか否か」という判断基準が最高裁(最判昭和58・10・7民集37巻8号1082頁、最判昭和59・5・29民集38巻7号920頁)で示されているものの、具体的な事例においてどこまでが許容され、どこからが不正競争に当たるのか、その線引きを行うことは難しく、個別事案の集積を待つほかない。
不正競争防止法に関する事件は、広い意味での知的財産に関する事件であり、今後事件数が増大していくと考えられる分野の一つである。本件は、一つの具体例として、意味を持つものと思われる。
(さかもと・まさふみ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。熊本県生まれ。2009年熊本大学法科大学院修了。2011年判事補任官(東京地方裁判所)。2014年「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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