ミャンマー:M&A法制と実務(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
1. M&Aの概観
日系企業によるミャンマー投資はこれまでグリーンフィールド投資の割合が多かったと思われるが、他国への投資を検討する場合と同様、ニーズによってM&Aも選択肢の1つとなり得る。そこで、本稿は、ミャンマーにおける主なM&Aの対象会社について簡単に説明の上、ミャンマーで設立された会社が関わるM&Aの主な形態として、以下の方法についてその概要を2回に分けて解説する。
(1) 株式譲渡又は新株発行による外国企業によるミャンマーの会社の株式取得の方法
(2) ミャンマーの会社の持株会社であるミャンマー以外の国の会社の株式取得の方法
(3) ミャンマーの会社の事業を譲り受ける方法
なお、ミャンマーには、日本の合併、会社分割、株式交換、株式移転に相当する制度はない。
2. M&Aの対象となる主な会社の分類
M&Aの方法の検討に先立って、ミャンマーでM&Aの対象となる主な会社の分類について一言触れておきたい。ミャンマーの会社は、その資本関係、及び株主数・株式譲渡制限等に基づいて以下のとおり分類されている。なお、以下は網羅的分類でない点は留意されたい。
資本関係に基づく会社の分類 | 内容 |
国内会社 (Myanmar Company) |
(i)会社の株式資本の全てをミャンマー国民が保有・支配している会社、又は(ii)株式資本がない保証有限責任会社の場合には、会社がミャンマー国民によって保有・支配されている会社をいう。 |
外国会社 (Foreign Company) |
(i)国内会社若しくは特別会社に該当しない会社、又は(ii)ミャンマー国外で設立された会社でかつミャンマー国内に事業拠点を有する会社をいう。 ※国内会社の定義からすれば、外国企業が一株でも会社の株式を有し、又は会社の保有・支配に関与している場合には、基本的に外国会社となる。 ※本稿3.(1)②③では、外国会社のうち上記(i)の会社に関する株式譲渡を対象として論じる。 |
株主数制限、株式譲渡制限等に基づく 会社の分類 |
内容 |
閉鎖会社 (Private Company) |
付属定款によって、(i)株式の譲渡制限、(ii)株主50名(会社の従業員は含まれない。)以下とする株主数制限、及び(iii)公募による株式又は社債の発行の禁止が定められた会社をいう。 |
公開会社 (Public Company) |
会社法等に基づいて設立された会社で、閉鎖会社に該当しない会社をいう。 |
3. M&Aの主な方法
(1) 株式譲渡・新株発行
-
①「国内会社」の株式取得
外国企業による上記の「国内会社」の株式取得は、国民投資法の適用対象会社の株式を取得する場合を除き、株式取得の際に営業許可(外国会社がミャンマー国内で事業を行うために必要となる許可)を取得することが実務上一般的に認められていないため、現時点では困難とされている。 -
② 株式譲渡による「外国会社」の株式取得
他方、外国企業が上記の「外国会社」の株主からその保有する同外国会社の株式を取得することは一般に可能と理解されている。例えば、外国会社のうち外国投資法上の外国投資承認を得た会社については、外国投資委員会の許可を得る等所定の手続を経て外国企業が外国投資承認を得た会社の株主から同社の株式を取得することができる。もっとも、外国投資規則上、①株式譲渡の合理性、②国及び国民の利益に影響を与える可能性があるか、及び③買主が事業を継続できるかという基準に基づき株式譲渡の許否を外国投資委員会が審査することが予定されており、その点が株式譲渡等の制約になり得る点は留意が必要である。また、上記に記載した非公開会社の定款に定める株式譲渡制限や株主の人数制限の規定にも留意する必要がある。 -
③ 新株発行による「外国会社」の株式取得
これに対し、新株発行の方法により上記の「外国会社」の株式を取得する場合には、既存株主への株式保有割合に応じた株主割当が原則とされており、外国企業に対する第三者割当は既存株主が株主割当に係る権利を失った部分に限り可能とされている。なお、外国投資承認を得た会社の株式を既存株主以外に割り当てる場合には、外国投資委員会の承認を取得する必要がある。