◇SH0143◇最一小決 平成26年7月22日 業務上過失致死被告事件(白木勇裁判長)

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 本件は、いわゆる明石砂浜陥没事故事件の第2次上告審であり、兵庫県明石市内の大蔵海岸東地区にある人工砂浜において、突堤付近の砂層内に大規模な空洞が形成され、平成13年12月30日、当時4歳の被害者が、その空洞が崩壊して生じた陥没孔に生き埋めとなり、約5か月後に死亡した事故について、その砂浜を含む海岸の工事、管理事務を担当していた国土交通省近畿地方整備局姫路工事事務所工務第一課の課長である被告人が、同砂浜の安全管理に過失があったとして業務上過失致死罪に問われた事案である。

 被告人は、前記工事事務所東播海岸出張所長並びに国の許可を得て前記砂浜を含む地域を公園として占用していた明石市の土木部海岸・治水担当参事及び同部海岸・治水課長とともに本件で起訴され、第1次第1審の神戸地裁は、被告人らに対し、本件事故についての予見可能性は認められないとして無罪を言い渡した(判タ1254号322頁)。これに対し、検察官が控訴したところ、第1次控訴審の大阪高裁は、上記予見可能性を認めて、第1次第1審判決を破棄し、被告人らが取りうる結果回避措置や量刑に関する証拠調べを行わせるため、事件を神戸地裁に差し戻した。これに対し、被告人らが上告したが、第1次上告審である最高裁第二小法廷は、職権で、被告人らの予見可能性が認められることを判示し、上告を棄却した(最二小決平成21・12・7刑集63巻11号2641頁)。差戻し後の第2次第1審では、訴訟進行上の都合から被告人の弁論を分離し、被告人を有罪とした上で禁錮1年、3年間執行猶予の刑を言い渡した。そして、被告人の控訴を受けた第2次控訴審は、これを是認したため、被告人が上告した。

 前記のとおり、第1次上告審決定は、被告人らの予見可能性を肯定した第1次控訴審判決について、職権判示をした上で、これを是認したものである。これに対し、第2次上告審では、第1次上告審では争点になっていなかった被告人の業務上の注意義務の有無も問題となり、被告人は、明石市が国から占用許可を得て本件事故が起きた砂浜を含む地域を公園として管理していたのであるから、国の職員である被告人には、同砂浜の安全管理業務に従事して本件事故の発生を防止すべき業務上の注意義務はなかったと主張していた。

 組織内における担当者の不作為による過失犯において業務上の注意義務の有無が問題となった判例として、近時のものでは、薬害エイズ事件(厚生省ルート)に関する最二小決平成20・3・3刑集62巻4号567頁、明石花火大会歩道橋事故事件に関する最一小決平成22・5・31刑集64巻4号447頁、トラック欠陥放置事件に関する最三小決平成24・2・8刑集66巻4号200頁などがある。これらをみると判例は、業務上の注意義務の有無に関し、被告人の地位や職責、権限に加え、その職務の遂行状況の実体等の諸事情を前提として、結果発生の危険性や、それに対する支配、管理性などの事情を実質的、総合的に考慮し、刑法上の注意義務としての結果回避義務を肯定できるかどうかを判断してきたと思われる。

 本決定は、本件砂浜が海岸法上の国の直轄工事区域内に存在し、その区域内の海岸保全施設の維持管理を国がしていたことなどから国に本件砂浜の安全管理をすべき基本的責任があって、被告人の所属課はその具体的担当部署の1つであったとし、同課が属する工事事務所が明石市と共に本件砂浜で本件以前から続発していた陥没の対策に取り組み始めていたことなどの事情に照らすと、同課課長の被告人には本件砂浜に関する安全措置を講ずべき業務上の注意義務があると判断した。

 以上のような本決定は、これまでの判例と同様の考え方に基づいて業務上の注意義務の有無を判断したものと理解される。本決定は、具体的な事実関係を前提としたものではあるが、いわゆる特殊過失事案において業務上の注意義務が認められた一事例として先例価値があると思われ、実務上、類似事例における判断に当たって参考にもなると思われる。

 なお、被告人とともに起訴された他の3名についても、第2次第1審で有罪(各禁錮1年、3年間執行猶予)となり、控訴棄却を経て、本件決定と同日に上告が棄却されている(最一小決平成26・7・22裁判集登載予定)。

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