◇SH0147◇渉外的消費者契約と管轄合意(1) 西口博之(2014/11/27)

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渉外的消費者契約と管轄合意(1)

―最近の裁判例に関連して―

               大阪大学大学院経済学研究科非常勤講師

西 口 博 之

Ⅰ はじめに

 昨今のインターネット取引の普及に加えて、経済活動のボーダーレス化により、個人が契約当事者となり、法人の契約相手先との間で不公平な競争にさらされるケースが増えてきている。例えば、インターネットを通じた商品の売買とか、サービスの提供を受けたり、また海外の事業者から商品・役務の提供を受けたりする結果、その商品・サービスの受け渡しならびに代金決済に係る紛争に介入させられたり、契約相手が従来のタイプでないために生じるトラブルも増えている。このような無店舗で、かつ渉外的な商取引では、法人と個人としての消費者では、色々な面で不平等な交渉力・力関係の下で取引が行われることになる。

 本稿では、この場合に消費者にとって問題の多い契約の裏面約款に関して、消費者の立場からして、約款取引の問題点とか最近の紛争・裁判例等を検討して、今後の消費者保護のあり方等を論じるものである。

Ⅱ 消費者契約のボーダーレスとルール

1 渉外的消費者契約と約款取引

 クロスボーダーによる消費者取引としては、国際売買契約・国際運送契約・国際保険契約・国際代金決済契約(信用状契約)等が関係しており、通常の法人間取引と同様に、法人対個人・個人対個人の場合を問わず、種々の一般的な契約条件(責任制限条項・免責条項等)が約款として、消費者側の個人が一方的に引き受ける形で、その約款が承認されている[1]

 この契約上の当事者の一方である消費者が事前・事後にその約款契約自体の形成に関与しておらず、かつその内容の変更についても当事者としての消費者の介在が難しい現状からして、約款に対する規制論が生じる。

 一方、わが国には約款規制法が存在しないため、判例・学説などの議論が盛んである。

 また、債権法の改正問題の中でも、約款問題が取り上げられ、消費者法における規制対象を民法にも取り入れる提議等がなされてきた[2]

 しかし、その後の約款規定に関する議論は、当初予想された形でない方向に進んでいるようである。平成26年9月8日民法(債権法)の改正に関する要綱仮案が公表されたが、ここでは定型約款についての項目の保留が決定され、引き続き検討されることになった[3]

 なお、これを受けて、平成26年10月に公表された消費庁の「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書」では、次のような報告が行われている[4]

「現代社会では、約款というものが色々な局面で使用されているので、約款をめぐる法律関係を規律する法律は必要である。特に、消費者契約においては必要である。具体的には、定義、組み入れ条件、不意打ち条項、不当条項規定、約款の変更といった法規範について考えられる必要がある。この点については、民法改正の動向を踏まえる必要があるが、もし民法に規定されない、若しくは十分なものが規定されないということになったときには、消費者契約法における立法を考える必要がある。約款は、民法改正の議論において様々な懸念が示された論点で、要綱仮案(平成26年8月)でも取り扱い保留となっているものであり、これらの議論を踏まえて検討するべきである。」

 消費者契約における約款規制は、消費者契約法が2000年に制定されて以来、同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)が一般条項的機能を担いつつ展開しており、管轄合意についても、同条適用の余地があるとされている[5]

 この消費者法第10条は、①「民法・商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」による場合に比べ、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する条項であって、②信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする場合のみ、消費者契約法10条を根拠に当該条項の無効を主張出来る旨を規定しているようにも見られる[6]

2 渉外的消費者契約とルール

 渉外的な消費者契約に関しては、その特徴として契約の当事者が海外の法人あるいは個人とわが国の個人であるか、その反対のわが国の法人と海外の個人の消費者契約が考えられるが、通常は前者のケースがほとんどである。このケースでのルールとしては、わが国の法と海外の国の法律が関与するので、準拠法と国際裁判管轄の問題がその主なる議論の対象となり、具体的にはその契約上に規定されている契約の裏面約款の問題となる。

 わが国の消費者が海外の事業者との間で行う消費者契約で紛争が生じた場合、どの国の消費者保護法の適用を受けるのか、また、どのような紛争解決方法が取られるのか(どこで裁判が行われるのか)については、準拠法と国際裁判管轄の問題として議論されている[7]

 まず、消費者契約の約款上で、準拠法なり国際裁判管轄の合意がなされている場合、当事者自治の原則により、その合意が尊重される(通則法7条)。

 ただし、通則法では、その11条に、消費者契約についての特則が設けられている。

 これは当事者が利用規約等を介して、準拠法を特定した場合でも、消費者の弱い立場を配慮してその成立および効力に例外を設けていることである。

 ① 契約書で指定した準拠法が消費者の「常居地」であるときは、その消費者の常居所地法が専ら適用され(通則法11条4項)

 ② これに対して、契約書で指定した準拠法が消費者の常居所地法でないときは、つまり、消費者にとって米国法等外国法であるときは、常居所地法の強行規定の適用を消費者が主張すれば、その強行規定が、例えば日本法を主張すれば、その消費者の強行規定が適用される(通則法11条1項)。その場合、日本法の消費者契約法4条1項の適用を主張して、米国法の適用を取り消すことができる。

 なお、当事者間で、準拠法や国際裁判管轄を事前に定めていない場合は、当該取引に「最も密接な関係がある地の法」が適用される(通則法8条)。

 ただし、消費者契約については、当事者が準拠法を指定していない場合には、消費者の「常居所地法」によると定められている(通則法11条2項)。

 なお、通則法では、事業者の利益との調整を図るため次の措置を置いて消費者保護規定の適用除外としている。

 ① 事業としての契約(通則法11条1項括弧書)

 ② 事業者の消費者の常居所地の不知・誤認(通則法11条6項3・4号)

 ③ 消費者の常居所地を離れて国境を越えた契約(通則法11条6項1号)

 一方、国際裁判管轄については、仲裁合意がない場合には、あるいは仲裁合意の解除された場合は、わが国の民事訴訟法の下では、通常は消費者の住所がある日本の裁判所に国際裁判管轄が認められている[8]

 この場合、民事訴訟法では、消費者契約については、次のような特則を設けている。

① 消費者からの事業者に対する訴え(同法3条の4第1項)

② 事業者からの消費者に対する訴え(同法3条の4第3項)

③ 国際裁判管轄の合意についての特則(同法3条の7第5項)

 上記の準拠法と国際裁判管轄に関しては、インターネット取引の場合は、通常利用規約に記載されるが、その記載内容は概ね事業者にとって有利で、消費者にとっては不利な条件で設定されるケースが多い。

 なお、民事訴訟法は、取引・財産法関連に限定されるが、経済活動の国際化・グローバ化に対応すべく、国際裁判管轄を成文化することにより、当事者の予見可能性を高めるために、2011(平成23年)年5月に改正され、2012年4月1日より施行されている[9]

 そのうち、国際商取引に関連する合意管轄での分野の主な改正点は次のとおりである。

 ① 民訴法3条の7(当事者の管轄合意による国際裁判管轄)

 いわゆるチサダネ号事件の最高裁判決により規律される分野で、改正法では、当事者は合意により日本または外国の裁判所を管轄とすることを広く認める一方、一定の法律関係に基づく訴えに関する合意であることと、書面性を要件とした。

 ② 民訴法3条の3三号(財産上の訴え)

 財産権上の訴えとは、広く経済的利益を目的とする権利を言い、通常金銭請求や物の引き渡し請求等がこれにあたる。その請求の目的物または差し押さえ可能財産が日本国内に存在する場合は、日本での提訴が可能であり、外国人が日本に支店等を持たないが一定の試案を置いて営業している場合などには対応が可能である。

 ③ 民訴法3条の4(消費者契約に関する訴え)

 消費者契約という新しい類型がその国際裁判管轄の対象となったが、消費者から事業者への訴えについては、訴え提起時または消費者契約締結時の消費者の住所地の裁判所に管轄権を認めた。さらに、外国事業者と日本に住所を有する消費者間の売買契約に関する紛争では、同契約に事業者の本拠地(外国)の裁判所を管轄とする合意があった場合で、消費者が外国で訴訟出来ずに欠席裁判となるケースに対応すべく改正法の下では間接管轄を排除した。

 また、合意管轄の要件としては、つぎのような要件が考えられる[10]

  1. 少なくとも当事者の一方が作成した書面に管轄の合意が明示されていて、当事者間における合意の存在と内容が明白であること(合意の方式)
  2. 専属管轄のルールに反しないこと
  3. 外国の管轄を専属的に指定するときは、その国の法律に従い、その国の裁判所が管轄を肯定すること(合意された裁判所の管轄の存在)
  4. 指定した国と本件との間に何らかの合理的関係があること(合意された裁判所と事件の関連性)

 ところで、わが国における最近の国際裁判管轄の合意に係る裁判例としては、昭和50年11月28日最高裁判決(チサダネ事件)を契機として、平成4年1月24日大阪地裁判決(機械の国際賃貸借契約)、平成6年2月28日東京地裁判決(ライセンス契約)、平成8年2月28日東京地裁判決(スポーツ用品ライセンス契約)、平成12年4月28日東京地裁判決および平成12年11月28日東京高裁判決(雇用契約)、平成20年4月11日東京地裁判決(代理店契約)、平成24年11月14日東京地裁判決(外国人雇用契約)、平成25年12月17日最高裁判決(信用状契約)などがあるが、その他に渉外的消費者契約に関連して後述する次の裁判例が見られる。

  1. 平成23年10月14日神戸地裁判決(インターネットによる外国為替契約)[11]
  2. 平成24年2月14日東京地裁判決ならびに平成24年6月28日東京高裁判決[12]
  3. 平成25年4月19日東京地裁判決ならびに平成25年9月18日東京高裁判決(株式取引)[13]
  4. 平成26年1月14日東京地裁判決ならびに平成26年11月17日東京高裁判決

以下、(2)に続く



[1] 大村淳志『消費者法(第4版)』(有斐閣、2011)200頁以下。

[2] 大村・前掲注(1)28頁以下。

[3] NBL1033(2014)9頁以下参照。平成26年8月26日付け民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案(案)部会資料83-1参照。

[4] 消費庁HP平成26年10月「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書」参照。

[5] 上田竹志「消費者契約における管轄合意と移送」法学セミナー692号130頁以下。

[6] 潮見佳男『消費者契約法・金融商品販売法と金融取引』(経済法令研究会、2001)15頁以下。             

[7] 東京弁護士会『ネット取引被害の消費者相談』(商事法務、2010)54頁以下。

[8] 伊藤眞『民事訴訟法第4版』(有斐閣、2014)328頁以下。

[9]増田晋「新国際裁判管轄法制の概要」慶応法学24号(2012)4頁以下。

 

[10]神前禎「合意による管轄権」『新・裁判実務大系第3巻・国際民事訴訟法(財産法関係)』(青林書院、2002)137頁以下。道垣内正人「国際的裁判管轄権」『注釈民事訴訟法』(有斐閣、1991)113頁以下。田中美穂「合意管轄」『演習ノート国際私法』144頁以下。

[11] 判時2133号96頁以下。長谷川俊明「渉外判例教室」国際商事法務40巻9号1386頁以下。

[12] 芳賀雅顕「国際裁判管轄の専属的合意と国際的訴訟競合の関係」慶応法学28号(2014)275頁。

[13] 高杉直「消費者契約中の外国裁判所の専属管轄合意を認めた事例」Westlaw Japan0120-100-482。近江法律事務所『消費者契約法判例集』「国際的専属管轄合意」(2014.3.12)http://www.omi-lo.com/cca/

(にしぐち・ひろゆき)

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