◇SH1190◇シンガポール：SIAC仲裁の最新動向 2017　青木　大（2017/05/26）

シンガポール：SIAC仲裁の最新動向 2017

長島・大野・常松法律事務所

弁護士　青　木　　　大

　2016年3月に発表された年次報告書によると、SIACは開設25周年を迎えた2016年において、343件という過去最高の新件受件数を記録したとのである。これは、2015年の新件受件数（271件）を大きく上回るものである。訴額の合計額についても171.3億SGDと、2015年の62.3億SGDから大きな飛躍を遂げた。SIACのアジアの国際仲裁ハブとしての位置付けは、より一層強固なものになりつつあるといえそうである。

（新件受件数の推移）- ここ10年で約4倍に
2006	2007	2008	2009	2010	2011	2012	2013	2014	2015	2016
90	86	99	160	197	188	235	259	222	271	343

　シンガポールを除く国別新件数では、1位インド、2位中国、3位米国となった。若干の順位の変動はあるものの、上位8カ国（インド、インドネシア、マレーシア、中国、香港、韓国、オーストラリア、米国）はここ3年常に上位10位以内に入っており、これらの国のユーザーによるSIACの利用が定着していることがみてとれる。なお、日本案件は合計13件と前年から増加傾向を示した。内訳は、申立人側5件、被申立人側8件となっている。

	2014	2015	2016
1	中国（41）	インド（91）	インド（153）
2	米国（38）	中国（46）	中国（76）
3	インド（37）	韓国（34）	米国（42）
4	香港（27）	米国（33）	インドネシア（38）
5	マレーシア（21）	オーストラリア（32）	韓国（38）
6	英国（21）	ベトナム（29）	オーストラリア（36）
7	韓国（17）	香港（26）	マレーシア（28）
8	オーストラリア（15）	インドネシア（24）	香港（27）
9	インドネシア（13）	BVI（15）	英国（27）
10	タイ（10）	マレーシア（15）	オランダ（19）
日本	6件	8件	13件

　紛争で問題となった契約準拠法の割合については、近年大きな変化はなく、引き続きシンガポール法、英国法、インド法が多くを占める。

	2014	2015	2016
1	シンガポール法（49％）	シンガポール法（59％）	シンガポール法（49％）
2	英国法（25％）	英国法（21％）	英国法（19％）
3	特定なし（10％）	その他（9％）	特定なし（12％）
4	インド法（4％）	インド法（6％）	インド法（9％）
5	その他（12％）	特定なし（5％）	その他（11％）

仲裁にかかる期間及び費用の動向

　SIACは2016年10月10日に、SIAC仲裁手続において実際にかかった期間と仲裁費用（仲裁人報酬及び事務管理費用）の統計的分析を以下の通り発表した。分析の母集団は2013年から2016年の間に提起され終局判断に至った98件の案件である。

＜SIAC＞
	期間（平均値）	期間（中央値）
全仲裁	13.8か月	11.7か月
うち単独仲裁人の仲裁	13.0か月	11.3か月
うち3名の仲裁人の仲裁	15.3か月	11.7か月

	仲裁費用（平均値）	仲裁費用（中央値）
全仲裁	80,337USD	29,567USD
うち単独仲裁人の仲裁	39,207USD	27,941USD
うち3名の仲裁人の仲裁	154,371USD	80,230USD

　なお、2016年12月に香港の仲裁機関HKIACが公表した同様の分析は以下の通りである。特に仲裁手続が単独仲裁人によるものか・3名の仲裁人によるものかの内訳が明らかとされていないために単純比較はできないものの、概ね似通った傾向を示しているように思われる。

＜HKIAC＞
全仲裁	平均値	中央値
期間	12.25か月	11.60か月
費用	65,721USD	31,704USD

また、英国の仲裁機関LCIAも2015年11月に以下の分析を公表している。多様な案件が含まれるためこちらも単純比較は難しいが、期間・費用の観点からは、基本的にはSIAC、HKIACの方がLCIAよりも効率性が上回っているといえそうである。

＜LCIA＞
	期間（平均値）	期間（中央値）
全仲裁	20か月	16か月
うち単独仲裁人の仲裁	18.5か月	15か月
うち3名の仲裁人の仲裁	21か月	19か月

	仲裁費用（平均値）	仲裁費用（中央値）
全仲裁	192,000USD	99,000USD