進展する中国資本市場の開放
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
2014年11月17日より「滬港通」(上海・香港ストックコネクト)制度に基づく取引が開始された。
ストックコネクトとは、香港及び海外の投資家による香港聯合取引所を通じた上海株の売買を可能とするとともに、所定の条件を満たす中国国内投資家による上海証券取引所を通じた香港株の売買を可能とする制度である。中国の資本市場改革の中でも特に重要な制度として、2014年4月10日、李克強首相自ら発表された鳴り物入りの制度である。当初は、市場全体で取引枠(当初は、投資総枠として香港から中国:3,000億人民元、中国から香港:2,500億人民元)が設けられ、一日あたりの枠も設けられているが、当該取引枠は今後、必要に応じて増枠されることになっている。投資対象としては、上海及び香港のそれぞれの市場でのインデックスを構成する一部の銘柄と、上海と香港の両地で上場している銘柄のみに限定されている。投資主体に関しては、中国個人投資家による香港株の売買については、投資口座の資産価値が50万人民元以上であることが要求されるが、条件を満たしている限り投資家が当局から承認を得る必要はない。香港・海外投資家による中国株の売買については、特に参入条件は設けられていない。
もともと、中国の証券市場は原則として制限されており、海外投資家の中国人民元建て株式(A株)への投資や、中国国内投資家の海外投資は、(各種手法でクロスボーダー投資が広く行われているのも事実であるが)一定の例外を除き制限されていた。例外的な制度としては、海外から中国株(A株)への投資のための制度であるQFII(適格海外機関投資家制度。2002年開始)及びその人民元建て版であるRQFII(人民元適格海外機関投資家制度。2011年開始)があったが、一定の資格要件を満たした投資主体が投資に先立ち、中国証券監督管理委員会(CSRC)の承認を得た上、国家外貨管理局(SAFE)から個別の投資枠を得る必要があった。導入以降、投資主体資格や投資対象は徐々に拡大されてきた。逆に、中国から海外への投資のための制度としては、QDII(適格国内機関投資家制度。2006年開始)があり、中国の基金管理会社等が各所轄当局から許認可を受けた上、外国通貨で海外への証券投資を行うことができた。
ストックコネクトは、当面は参入条件や取引総額等の制限が付せられているものの、事前の許認可を得る必要なく、個人投資家も含めた多くの投資主体が合法にクロスボーダー取引を直接に自由に行えるようになったという点で、資本市場の開放に向けて、大きな一歩を踏み出したものといえよう。
開始後1週間、ストックコネクトを通じた株式売買は通じて低調であったと報道されているが、今は試行段階にすぎず、今後中国ならではの漸進的な制度改善が進められるであろう。ストックコネクトを通じ、中国の証券市場がより世界の証券市場の一部として重要性を高めていくことが予想される。