◇SH0185◇金融庁、「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集(平成26年12月改訂版)を公表 政本裕哉(2015/01/15)

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金融庁、「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る
参考事例集(平成26年12月改訂版)を公表

岩田合同法律事務所

政 本 裕 哉

 

 金融庁は、平成26年12月25日、「経営者保証に関するガイドライン」の活用に関して、金融機関等により広く実践されることが望ましい取組みをまとめた参考事例集の改訂版を公表した。

 経営者保証には、①個人保証への依存が、借り手・貸し手双方が本来期待される機能(情報開示、事業目利き等)を発揮していく意欲を阻害している、②個人保証の融資慣行化が、貸し手側の説明不足、過大な保証債務負担の要求とともに、借り手・貸し手間の信頼関係構築の意欲を阻害している、③保証履行時の課題(経営者が原則として交代すること、不明確な履行基準、保証債務の残存等)が、中小企業の創業、成長・発展、早期の事業再生や事業清算への着手、円滑な事業承継、新たな事業の開始等、事業取組みの意欲を阻害している、といった問題点が挙げられる。「経営者保証に関するガイドライン」は、このような保証契約時・履行時等における課題への解決策を具体化するため、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が作成し、平成25年12月5日に公表された自主的かつ自律的な準則であり、平成26年2月1日より適用が開始されている。同ガイドラインは、経営者の個人保証について、①法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと、②多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること、③保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること、などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期の事業再生等を応援するものである。

 金融庁は、同ガイドラインの積極的な活用を各金融機関関係団体等に対し要請しており、平成25年6月に公表された参考事例集も、金融機関等による積極的な活用に向けた取組みが促進され、同ガイドラインが融資慣行として浸透・定着していくこと、中小企業等にとっても積極的な事業展開や早期の事業再生等の取組みの参考となること、その他の経営支援の担い手にとっても経営支援の一助となることが期待されている。

 今般の改訂によって、12の参考事例が追加され、併せて35事例となった。同事例集は、(1)経営者保証に依存しない融資の一層の促進、(2)適切な保証金額の設定、(3)既存の保証契約の適切な見直し、(4)保証債務の整理、の4項目から構成されており、主に(1)及び(4)に関する事例が今般追加されている。

 いくつか例を挙げると、まず、「適時適切な情報開示が実現したため経営者保証を求めなかった事例」は、企業が積極的な財務情報の開示を行うことが企業のメリットになることを示す事例でもある。次に、「在庫の特性を踏まえABLを活用して経営者保証を求めなかった事例」においては、ABLのような代替的なファイナンス手法が中小企業融資でも有効であることが示されている[1]。また、「他行にノウハウの提供を行い、協調して停止条件付保証契約を活用した事例」は、地元金融機関の協調による顧客とのリレーション強化の可能性を示す事例である。

 金融機関において同事例集を参考にするのはもちろんのこと、中小企業の経営者においても、同事例集を参考に、金融機関とのリレーションを強化することにより、積極的な設備投資や迅速な経営改善が可能になると思われるし、また、大企業にとっても、金融機関とのリレーション強化の参考になると思われる。

 

  主な掲載事例(35事例)

   (1)経営者保証に依存しない融資の一層の促進(19事例)

    ・経営者保証を求めなかった事例

    ・経営者保証の機能を代替する融資手法を活用した事例

   (2)適切な保証金額の設定(4事例)

    ・経営者保証以外の手段による保全状況等を考慮して、保証金額の設定、減額を行った事例

   (3)既存の保証契約の適切な見直し(7事例)

    ・保証契約の期限到来に伴い、経営者保証を解除した事例

    ・経営者の交替に際し、前経営者の保証を解除し、新経営者から保証を求めなかった事例 等

   (4)保証債務の整理(5事例)

    ・中小企業再生支援協議会を活用して保証債務を整理した事例

    ・事業再生ADRを活用して保証債務を整理した事例 等

    (金融庁「「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集について」より)

 



[1] なお、金融庁は、ABLの積極的活用を推進するべく、平成25年2月5日に、「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」を改訂し、金融検査マニュアルの運用の明確化を行っている。http://www.fsa.go.jp/news/24/ginkou/20130205-1.html

(まさもと・ゆうや)

岩田合同法律事務所パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録。2009年2月から2010年3月まで米系金融コンサルティングファームであるプロモントリー・フィナンシャル・ジャパンに出向。『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会 2014年)等著作多数。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

 

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