◇SH0197◇産業競争力強化法のグレーゾーン解消制度及び企業実証特例制度の活用結果 土門高志(2015/01/23)

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産業競争力強化法のグレーゾーン解消制度及び企業実証特例制度の活用結果

岩田合同法律事務所

 弁護士 土 門 高 志

 経済産業省は、平成27年1月9日、産業競争力強化法(以下「法」という。)に基づくグレーゾーン解消制度(以下「本制度」という。)及び企業実証特例制度[1]の活用結果について公表を行い、また、同月13日に、本制度を活用した照会事例について公表した。

 平成26年1月20日に法が施行され、創設された本制度は、事業者が、監督官庁に対して、事業に対する規制の適用の有無を照会することを認める制度であり、監督官庁又は利害関係者と事業者との間のトラブルを未然に防止することで、事業者による新たな事業活動を後押しすることが期待されている。

 以下、本制度の内容を概説すると共に、法施行から1年を迎えた本制度の利用状況を概観する。

 本制度は法9条1項に基づくものであるところ、同項においては、「新事業活動を実施しようとする者は、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、その実施しようとする新事業活動及びこれに関連する事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令(中略)の規定の解釈並びに当該新事業活動及びこれに関連する事業活動に対する当該規定の適用の有無について、その確認を求めることができる」旨が規定され、それを受けた同法施行規則(主務省令)が本制度に係る手続の詳細を規定している。本制度は、新たに検討している具体的事業に関し、特定の法規制が適用されるか否かの確認を事業者が主務大臣に対して求めることを認めるもので、いわゆるノーアクションレター制度と類似している。しかしながら、ノーアクションレター制度の下では、問題となる法規制を所管する「規制所管省庁」に対して直接照会することになるところ、本制度においては、新たに検討されている事業を所管する(すなわち、当該事業を支援すべき立場にある)「事業所管省庁」に対して手続の利用を申請し、当該申請を受けた事業所管省庁が、事業者に代わって、規制所管省庁に対する照会を行う点において異なる。事業者からすると、「規制所管官庁」より身近な「事業所管官庁」を照会先にできるため[2]、より利用しやすい制度と評価できる。

 また、本制度の下では、原則として照会に対する回答は1ヶ月以内にすべきものとされており(同法施行規則6条3項、5項)、かつ、やむを得ない場合において回答の期間を延長したとき(同条4項、6項)には、照会者に対して毎月検討状況を通知すべきものとされている。実際の平均処理期間については事例の集積を待たなければならないが、法が1ヶ月という処理期間の原則を定めている点については、ビジネス上の利用のしやすさという観点から一定の配慮がされていると考えられる。

 法施行後、本制度を利用して申請された照会の件数は、別表記載のとおり累計で25件となっており、本制度の利用状況に対する評価は分かれ得るが、1年間で中小企業14社を含む27社からの申請が行われた点に照らせば、本制度が提供する新規事業へのサポートについて一定の需要が存在することは確かである。

 今後、事例が集積するに伴い、照会に係る平均処理期間その他、手続の透明性・信頼性が高まれば、更に多くの事業者による申請が行われることが見込まれる。本制度は、弁護士等の専門家の活用と併せて、新たな事業の法的リスクを検討するための有力な手段となり得るものであり、制度の概要を把握しておくことが有益である。

 別表

出典:平成27年1月9日付経済産業省News Release

http://r26.smp.ne.jp/u/No/319289/iJyh3DGGFbJE_27735/150113003.html


[1] 新たな事業活動の実施を検討している事業者が規制についての特例措置を当該事業の所管省庁に対して提案し、検討の結果特例措置が創設された場合には、事業者は、規制が求める安全性等を確保する措置を盛り込んだ適切な事業計画を作成し、事業を所管する大臣の認定を受けることで、当該特例措置を活用できる制度であるが、当該制度に係る解説については別の機会に譲ることとする。

[2] 例えば、アウトドアレジャー体験事業を新たに検討する場合、当該事業に係る事業所管省庁は経済産業省であるが、問題となる旅館業法上の規制に係る規制所管省庁は厚生労働省である(平成27年1月13日付経済産業省News Release)。

(どもん・たかし)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年東北大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期)。2012年Northwestern University School of Law修了(LL.M.)。主な取扱分野は、ファイナンス取引、渉外取引全般、及び独禁法関連事件等。

 

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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