電気事業法等の一部を改正する等の法律案が閣議決議
岩田合同法律事務所
弁護士 田 中 貴 士
3月3日、「電気事業法等の一部を改正する等の法律案」(以下「本法案」という。)が閣議決定され、第189回通常国会に提出された。
電気事業制度については、「電力システム改革に関する改革方針」(平成25年4月2日閣議決定)において、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる電力システム改革が示された。その後、第1段階、第2段階の電気事業法の改正法はすでに成立しており、本法案は、第3段階として送配電部門の法的分離等をその内容とするものである。また、平成26年4月の「エネルギー基本計画」においては、電力システム改革と併せて、ガスシステム改革、熱供給システム改革を推進することとされており、これを踏まえて、本法案では、ガス事業における小売参入の全面自由化や導管部門の法的分離等を内容とするガス事業法の改正、熱供給事業における規制の合理化等を内容とする熱供給事業法の改正も含まれている。これらの施行スケジュールについては、経済産業省により下図のとおり示されている。
本稿では、電力システム改革について、その背景と本法案の内容を概説する。
※経済産業省作成に係る資料より引用
電気事業は、発電事業・送配電事業・小売電気事業の3種類に大きく分けられる。また、これを電力の取引に着目すると、発電事業は、発電事業者と小売電気事業者との卸電力取引であり、小売電気事業は、小売電気事業者と需要家(エンドユーザー)との小売取引である。
現行の制度では、既存の電力会社(一般電気事業者)は、自社の発電事業のほか、卸電気事業者や卸供給事業者等との卸取引により電力を調達し、これを自社の送配電ネットワークを用いて需要家に小売している。また、平成11年の電気事業法改正以降、大口需要の小売について段階的に自由化が行われた。一般電気事業者の送配電ネットワークは、この小売の部分自由化に伴う新規参入者(特定規模電気事業者)の電気を需要家へと送り届ける機能(託送供給)も担っている。
このような現行の制度に対し、小口需要を含む小売の全面自由化は、第2段階の電気事業法の改正により行われる。
※経済産業省作成に係る資料より引用
小売の自由化は、いうまでもなく電力市場の競争を促すための措置であるが、一方で、送配電ネットワークについては、不可欠施設(ボトルネック施設)[1]として、自由な競争には馴染まないものであるとされる。そのため、電力市場の公正かつ有効な競争の観点からは、新規参入者等の競争者が公平に送配電ネットワークを利用できるよう、一般電気事業者の保有する送配電ネットワークについて、中立性を確保することが要請される。これを達成するための手法として、独占禁止政策上、行為規制・構造規制という考え方がある。
現行の電気事業法では、行為規制の手法が採られ、一般電気事業者の送配電部門について、会計分離[2]、情報遮断[3]、差別的取扱いの禁止[4]が規定されている。
本法案は、この送配電ネットワークの中立性を確保するための措置をさらに推し進め、構造規制として、一般電気事業者の送配電部門を別会社としたうえで、その送配電事業を営む会社が発電事業や小売事業を兼業することを原則として禁止するものである(法的分離、本法案による改正後の22条の2)。また、送配電部門を別会社としても、発電事業や小売電気事業を営む会社と資本関係を有することは排除されないことから、併せて行為規制も講じられ、そのようなグループ内での送配電事業者の取締役又は執行役の兼職の制限(同22条の3第1項)や、業務委託の制限(同23条3項ないし5項)等が規定される。
もっとも、電力政策には、以上のような電力市場における競争の促進という要請だけでなく、電力の安定供給や品質の確保という要請がある。そのため、送配電事業者には、引き続き総括原価方式の料金規制を講じることにより、送配電ネットワークの維持のために必要な投資回収をし得るよう図られ(第2段階の改正後の18条)、小売電気事業者には、自らの顧客需要に応ずるために必要な供給力を確保することが義務付けられる(同2条の12)。
また、小口需要の市場においては、自由化後もしばらく、一般電気事業者以外の供給能力や採算性等から、競争が実質的に確保されない状況も想定される。そのため、小口需要については、第2段階の改正において、現行の一般電気事業者の小売部門に対して供給義務を課すとともに料金規制を継続する経過措置が講じられているが(附則16条、18条)、本法案では、その対象事業者を国が指定する制度に変更され、小売市場における競争の進展状況により、供給エリア毎に規制を解除していくことが予定されている(附則16条)。
[1] あるサービスを供給するのに不可欠であるが、投資の絶対額が大きいこと等の理由により新規参入事業者が自ら整備することが困難な施設をいう。
[2] 託送供給等の業務により送配電部門に生じた利益が、他の部門で使われていないことを監視するために、送配電部門の収支計算書等の作成及び公表を義務付ける(現行の24条の5)。
[3] 送配電部門が託送供給業務に関して知り得た情報の目的外利用を禁止(現行の24条の6)。
[4] 託送供給業務において特定の電気事業者に対して不当に差別的に取り扱うことを禁止(24条の6)。
(たなか・たかし)
岩田合同法律事務所弁護士。2004年京都大学卒業。2005年弁護士登録。取扱分野は、金融法務、企業法務全般。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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