シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(7)
-神戸地判平成26年10月16日-
一般財団法人 日本品質保証機構
参与 丹 羽 繁 夫
(3) 被告社外取締役らの義務違反について
-被告社外取締役らは、同社の取締役である以上、「本件公開買付価格の前提となる株価決定それ自体の公正さに配慮する」義務(以下「株価決定の公正さ配慮義務」)があるほか、上記手続的公正性配慮義務の一環として、「株主からみて、本件公開買付価格の決定手続に強い疑念が生じないよう、その公正さの確保に配慮して行動すべき」義務があることに加え、社外取締役として、代表取締役等の業務執行一般を監視し、取締役会を通じて業務執行が適切に行われるようにすべき義務を負っていた(以下「手続的公正性監視義務」)(58頁);
① | 「手続的公正性監視義務」違反の有無について:被告H.K.らの価格決定プロセスへの不当介入に対する監視義務違反の有無 |
-被告H.K.が本件公開買付価格の決定に対して、どのように関与したのかは、基本的にはメールを送受信した者以外には直接これを知る術がないのが通常であることに加え、Oに対するメール送信指示行為等の殆どは、平成20年8月3日頃から同月27日頃までの1か月にも満たないごく限られた期間内に行われたものであることを考慮すると、被告社外取締役らに対して、直ちに被告H.K.のOに対するメール送信指示行為等の存在を察知し、これを止めるため然るべき措置を講じることを期待することは、極めて困難なことであったので、同被告らに「手続的公正性監視義務」違反の事実があるとはいえない(59、60頁);
② | 「手続的公正性配慮義務」違反の有無:被告社外取締役らの価格決定プロセスへの不当介入の有無: |
-被告社外取締役らは、7月22日付利益計画に比して保守的な8月31日付利益計画を作成するに当たって、ハヤテに対して作成業務の一部を担わせたり、そのアドバイスを受けたりする等、本件公開付価格の決定のために行われる利益計画の見直し作業に、公開買付者らを関与させることは、その公正さに疑念を生じさせる(61頁)が、本件MBOを完遂する上で、KPMG FASとEYTASの株価算定結果が乖離したままであれば、本件公開買付価格の交渉が行き詰まり、ひいては本件MBOが頓挫する可能性は高く、また、平成20年7月の同社の平均株価は、おおむね500円台前半を推移していたのに対し、KPMG FASの7月30日付算定結果では、同社株価はDCF法で1,104円~1,300円と、同平均株価の2倍以上の株価を示しており、この価格が高すぎるのではないかとの疑問を持つことや、KPMG FASの7月30日付算定結果の基礎資料とされた7月22日付利益計画は取締役会の承認を得ていないものであり、実現可能性の観点からこれを見直す必要があるのではないかと考えることは、不自然ではないので(61、62頁)、被告社外取締役らは、本件公開買付価格の決定プロセスに対して不当な介入を行ったものとはいえず、「手続的公正性配慮義務」に違反する事実は認められない(63頁);
③ | 「株価決定の公正さ配慮義務」違反の有無:被告社外取締役らの不当介入による不公正な価格形成: |
―上記で検討したとおり、被告社外取締役らは、本件公開買付価格の決定プロセスに対して不当な介入をしたとまではいい難く、そうである以上、不当な介入により不公正な価格形成が行われたものということはできない。被告社外取締役らは、平成20年9月29日に同社内でヒアリングを行ない、利益計画の数値を検討した上、新たに8月31日付利益計画と9月13日付アップケース等を作成し、本件公開買付価格交渉に臨んでおり、これらの利益計画は、検証委員会の検証において、いずれも不合理であるとはいえないとの見解が示されていることなどの事情に照らすと、本件公開買付価格の決定はそれ自体不公正なものであったとはいい難く[12]、被告社外取締役らが「株価決定の公正さ配慮義務」に違反した事実は認められない(64、65頁)。