フィリピン:新型コロナウイルス禍における会社法関連手続対応(1)
SEC提出書類の期限猶予
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
フィリピンでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、3月中旬よりマニラ首都圏を含むルソン全域に「強化されたコミュニティ隔離措置」が適用され、原則的なオフィス閉鎖、公共交通機関の運休、外出禁止等の措置が開始された。日系企業が拠点を置くルソン外の主要な地域においても概ね同時期より同種の措置がとられ、また、やはり同時期より外国人の入国も原則として禁止されるに至った。本稿執筆時点ではそれから約2か月半が経過したところであるが、これらの施策によって感染拡大が一定の範囲に収まりつつあるとの政府判断の下、地域によって内容に差はあるものの、コミュニティ隔離措置は総じて徐々に緩和されている状況にある。この間、新型コロナウイルス禍による種々の影響に対応するための法令その他当局によるルールの策定も多くなされているところ、本稿では、日系企業において関心が比較的高いと思われる会社法上の諸手続に関連する事項のうち、SEC提出書類に係る期限の猶予について紹介する。
フィリピン会社法上、会社は、各事業年度終了後、証券取引委員会(SEC)の指定する期間内に、監査済みの(監査免除会社にあっては財務役又はCFOの認証済みの)計算書類及びGeneral Information Sheet(GIS)とよばれる一定の会社情報を記載した書面をSECに提出しなければならない(会社法177条)。このSECによる期間の指定は毎年SECの回状によって行われており、概ね、(i)計算書類は事業年度終了後120日以内、(ii)GISの提出は定時株主総会終了後30日以内とされるのが慣例的な取扱いである。直近では2020年1月21日付で上記と同内容の期間指定がなされていたが(SEC回状2020年第2号)、新型コロナウイルス禍を受けた上記コミュニティ隔離措置による監査その他事務処理に生じる影響に鑑み、大要以下のとおり各種書類の提出期間が延長されている(非上場の会社の場合)。
計算書類の提出
- • 2019年11月末、12月末に事業年度が終了した会社:SEC登録番号の末尾の数字に応じ、2020年6月29日~8月7日までの指定された期間(SEC回状2020年18号)
- • 2020年1月末、2月末、3月末に事業年度が終了した会社:当初の提出期限を60日延長(つまり事業年度の終了から180日以内)(SEC回状2020年17号)
- • 2020年4月末に事業年度が終了した会社:当初の提出期限を45日延長(つまり事業年度の終了から165日以内)(SEC回状2020年17号)
- • 現時点では、所定の方式でのクーリエ・郵送によるハードコピーの提出のみ可
GISの提出
- • 電子メールによる暫定的提出:当初の指定どおり、年次株主総会の終了から30日以内
- • その後のハードコピーの提出:コミュニティ隔離措置の終了から30日以内(2020年4月8日(5月22日改定)SEC通知)
(2)につづく