中国:外商投資企業の外貨資本金決済に関する新管理規定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
中国では厳しい外貨管理規制がおかれているが、貿易等の「経常項目」及び資本金や外債等の「資本項目」のいずれについても、規制緩和と手続の簡素化が急速に進められている。
外国投資者が外商投資企業に対し出資する外貨建て資本金については、旧来の規定では、人民元での支出の必要が生じた時にはじめて、必要な金額のみを外貨から人民元に両替(人民元転;结汇)できるとの厳しい制限があった。昨年より、当初は上海の自由貿易区に限って(2014年2月「国家外為管理局上海市分局の中国(上海)自由貿易試験区建設を支持する外貨管理実施細則の公布に関する通知」)、その後、16のパイロット地区に拡大して(2014年7月、国家外為管理局2014年36号文「国家外為管理局の一部地域における外商投資企業の外貨建て資本金の人民元転管理方式の改革パイロットを展開する関連問題についての通知」)、自由な人民元転を認める緩和策が限定的に開始されていた。それらのパイロット政策を踏まえて、国家外為管理局は、2015年3月30日、規制緩和を全国レベルに拡大し統一的に適用することを発表し(2015年19号文「国家外為管理局の外商投資企業の外貨資本金の決済に対する管理方法の改革に関する通知」、以下「新規定」)、新規定は6月1日より施行されている。
1 外貨建て資本金の人民元転に関する規制緩和
新規定においては、外商投資企業は外貨建て資本金を任意の時点で任意の額を自由に人民元転することができる。また、従来通りに、支払いが発生した都度、外貨建て資本金を両替することももちろん可能である。ただし、前期費用口座の資金についてはなお旧規定通り支出発生時にのみ元転が可能とされる。
外貨建て資本金を人民元に両替した後は、自社名義の「人民元転後支払い待ち口座」(结汇待支付账户)を開設し、預け入れることとなるが、一度両替して、「人民元転後支払い待ち口座」に入った人民元は、減資や資本引揚げ等の場合に外国投資者に払い戻す場合を除き、再び外貨に両替し、資本金口座に戻すことはできず、基本的には、経営範囲内の支出に用いる。
2 手元準備金の両替制限緩和
手元準備金は、契約書等の証憑を提出することなく、人民元転が可能な資金であり、旧規定のもとでも認められていたが、新規定では、毎月の人民元転の上限額は従来通り10万米ドル相当とされる一方、毎回の人民元転の上限(5万米ドル相当額)が撤廃された。
3 人民元転資本金の使途に関する規制
「人民元転後支払い待ち口座」内の人民元資金を、経営範囲外で使用することは旧規定と同様に禁止される。同人民元資金は、経営範囲内の支出に用いるほか、国内持分投資資金(下記4.)、人民元借入の返済、保証金の提供、外債返済に伴う外貨への両替その他用途に用いることもできるとされた。
4 中国国内における持分投資
旧規定では、外貨資本金を用いて中国国内で持分投資を行えるのは投資性外商投資企業(投資性公司)に限られており、投資の方法としても、原通貨による出資(資本金が米ドルならば、人民元転せず米ドルのまま出資する)のみ可能であった。
この点は新規定により大幅に緩和され、投資性公司以外の通常の外商投資企業であっても、外貨資本金を用いて国内企業に持分投資することが可能になった。投資の方法も、原通貨をそのまま出資する方法だけでなく、人民元転したうえで人民元建てで出資する(通常の外商投資企業の場合は「人民元転後支払い待ち口座」を通じて投資先口座に送金する。投資性公司の場合は、これに加え、人民元転したうえ資本金口座から投資先口座に送金する方法も可能。)こともできるようになった。
外貨管理の分野は徐々にではあるが確実に規制緩和が進んでおり、日本企業の中国現地法人への出資や資金管理に大きな影響がある改革が今後も見込まれる。