◇SH1260◇タイ:改正取引競争法の成立 佐々木将平(2017/06/28)

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タイ:改正取引競争法の成立

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将 平

 

 2017年3月24日、日本の独禁法に相当する取引競争法(Trade Competition Act, B.E. 2542 (1999))の改正法案が、国家立法議会(クーデター政権下における国会に代わる立法機関)にて可決承認された。改正法は、国王の署名を経て、官報に掲載された日から90日後に施行される(現時点では官報掲載日は未定)。

 改正法案は、現行法(1999年取引競争法)に替わって施行されるもので、現行法から大幅な変更が行われている。改正の内容は多岐にわたるが、注目すべき改正点を以下に紹介する。なお、改正の背景などについては2016年2月の拙稿「SH0563 タイ:取引競争法に関する最新動向 佐々木将平(2016/02/18)」も参照頂きたい。

 

1. 企業結合規制

 現行法上、企業結合規制は存在するにも拘わらず、届出基準等を定めた細則が未制定であり、実際には適用できない状況が法律施行以来続いてきた。改正法の下では、独占をもたらし又は当事者を市場支配力を有する事業者たらしめる企業結合については、取引競争委員会の許可を取得することが義務づけられた。「市場支配力を有する事業者」の定義は、後述の通り、規則において規定されることとなる。取引競争委員会の審査期間は、許可申請受理日から原則90日以内とされ、必要な場合には15日を超えない期間の延長が認められている。また、一定の市場において競争を著しく減殺するおそれのある企業結合については、取引完了後7日以内に取引競争委員会に対する届出が求められることとなった。昨年公表されていた草案の段階では事後届出制のみとなっていたが、一定の企業結合については事前許可制が適用されることになった。タイが関係するM&Aを検討する場合には注意が必要である。

 

2. 取引競争委員会の体制変更及び権限強化

 取引競争委員会事務局(Office of Trade Competition Commission)が、Department of Internal Trade(商務省)の一部局から、独立の行政機関に格上げされる。組織としての独立性を確保し、政治的な影響・介入を排除することが目的である。

 また、取引競争委員会には、ルーリングを定める権限、競争政策について内閣及び政府機関に対して助言する権限のほか、行政罰や和解についての権限が付与されている。

 

3. 国営企業への適用拡大

 改正法の下では、国家安全、公共利益、公益又は公共事業を行うものを除き、国営企業も同法の適用対象とされた。

 

4. 罰則の強化・行政罰の新設

 罰金額が、6百万バーツの罰金から、違反のあった前年の収入の10%に引き上げられた。また、行政罰の制度も導入され、取引競争委員会が違反者に対して裁判手続によらずに制裁を科すことができるようになった。

 

5. 市場支配力を有する事業者の定義

 改正法の下でも、現行法と同様に、「市場支配力を有する事業者」による一定の競争制限的な行為が禁止されている。

 改正法の下では、市場支配力を有する事業者の定義は、取引競争委員会が規則により定め、最低5年に1回は見直しを行うこととされている。また、方針又は支配について関係のある事業者の市場シェアや売上高も合算して計算することとされており、企業単体ではなく企業集団毎の判断となることも明記された。

 上記の通り、改正案は、現行法における問題点を解消するための改正を数多く含んでいるが、詳細は今後規定される予定の規則に委ねられている点も多い。規則の内容もさることながら、その制定のタイミング(現行法に基づく規則は長年にわたって制定されないままの規則も多かった)にも注目が必要である。

 

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