◇SH0451◇中国:違約金の定め 川合正倫(2015/10/22)

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中国:違約金の定め

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 中国拠点の移転又は閉鎖に伴い、賃借しているオフィスの賃貸借契約を確認したところ、賃借人側の事情に基づき賃貸借契約を期間中に解約する場合には、残存賃貸期間の賃料に相当する違約金を支払う必要があるという規定をみて慌てるという事案は珍しくない。この場合、賃借人は賃貸借契約の規定に従い高額な違約金を支払う必要があるのか、本稿では契約に規定される「違約金」について、中国法における取扱いを紹介する。

 中国の契約実務上、契約上の義務違反や表明保証違反等があった場合に、違約責任として損害賠償請求を可能とする規定を設けることが一般である。しかしながら、かかる規定が存在する場合であっても、義務違反の結果として発生する損害が具体的な財産的損害でない場合や財産的損害の額が明確でない場合等、実務的には損害を立証することが困難な場合も多い。例えば、M&A交渉に入る前に締結する守秘義務契約において、守秘義務を課された当事者が守秘義務契約に違反して秘密情報を第三者に漏洩した場合に、具体的な損害を算定することは必ずしも容易ではない。

 このような事態に備えるため、中国の契約法においても「違約金」を定めることが可能とされている(契約法第114条)。具体的には、「違約金●●人民元」といった固定額を規定する方法や、「一日につき●%の遅延損害金」や「表明保証違反を直接の原因とする対象会社における純資産の減少額」といった算定方法を規定する例がある。

 日本の民法においては、違約金の定めは賠償額の予定と推定され(民法第420条第3項)、当事者は損害の発生と損害額の立証をせずに損害賠償を請求することができる。また、公序良俗違反(同第90条)などの理由で当該規定の有効性が否定されない限り、裁判所は、契約で定められた違約金の額を増減することができないとされている(同第420条第1項)。

 これに対し、中国においては、契約で定めた違約金が実際に生じた損害より低額である場合、当事者は裁判所等に増額を請求できる。ただし、この場合の増額後の違約金額は実際の損害を上限とする(「契約法」適用の若干問題に関する解釈二 第28条)。他方で、契約で定めた違約金が実際に生じた損害より著しく高額である場合、当事者は裁判所等に適当な減額を請求することができ、ここにいう「著しく高額」とは約定した違約金額が実際に生じた損害の30%を超える場合をいい、この場合、裁判所は実際の損害を基礎として契約の履行状況、当事者の過失の程度及び期待利益等を総合的に考慮して損害額を決する(「契約法」適用の若干問題に関する解釈二 第29条)。このように、違約金の定めがある場合に、実際の損害をベースに賠償額が調整されうる点において、中国法においては日本法とは異なるアプローチがとられている。

 違約金の取扱いは、日本法と中国法の契約実務における比較的大きな相違点であり、日本企業が中国の当事者との間で契約を締結する際の準拠法選択の際に留意する必要がある(中外合弁契約等一部の類型の契約は中国法準拠とすることが法律上要請されているが、多くの契約類型においては渉外契約については当事者間の合意に基づき準拠法を選択することが可能である。)。

 では、冒頭の事案において賃借人はいかなる範囲の賠償責任を負うことになるであろうか。まず、上記賃貸借契約の違約金の規定自体は有効と一般的に考えられており、規定自体が無効であるとして支払を拒絶するのは困難と考える。他方で、退去にあたり新規のテナントを紹介する場合や直後に別のテナントが入居することが明らかで、かつ、残存賃貸期間が長期の場合には、上記規定を根拠に全額の支払いを拒絶することが可能と考える。

 以上のとおり、中国法上の違約金規定の拘束力は日本法と比較して低いようにも思われるが、実務上は、契約締結当時者間において義務違反に対する抑止的効果が期待できるため、事案に応じて効果的な内容の規定を設けることが肝要である。

 

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