◇SH0007◇台湾:企業結合届出規定の改正 德地屋圭治(2014/06/23)

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台湾:企業結合届出規定の改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 德地屋 圭治

 

 本稿では、台湾における企業結合届出に関する規定の改正について紹介する。

 現在台湾の立法院(日本でいう国会)において台湾の公平交易法(日本でいう独占禁止法)を大幅に改正する改正案が審議されているが、その目玉の一つが企業結合届出に関する規定の改正である[1]。日本企業間又は日本企業及び外国企業間のM&Aであっても、台湾での売上などがあり、台湾市場に対する影響がある場合には、台湾の企業結合届出の規定が適用されることがあると考えられており、台湾における企業結合届出規定の今回の改正は日本企業にも影響を及ぼしうるので、注意が必要である。

 

1    企業結合の定義

 結合届出の対象となる企業結合については、現行法では、他の企業の株式・出資持分の3分の1以上の取得などが該当するとされ、従前、他の企業の株式・出資持分の保有割合を計算する際に、買収者との間で支配従属関係にある企業の保有持分を合算して計算するとされているが、今回の改正により、当該買収者の兄弟会社の保有持分も合算するとされる予定である。

 

2  結合届出の要件

(1) 売上高基準のみに改正(市場占有率基準の削除)

 結合届出の対象となる企業結合に該当する場合、現行法では、結合当事者である企業が以下の何れかの基準に該当するときに、一定の除外事由に該当する場合を除き、結合届出が義務づけられている。

  1. ① 結合により結合当事者の台湾市場占有率が3分の1に達するとき
  2. ② 結合前における何れかの結合当事者の台湾市場占有率が4分の1に達しているとき
  3. ③ 前会計年度における結合当事者の台湾売上高が主務機関の公告する金額を超えるとき
    (主務機関の公告により、非金融機関の結合の場合は、一方当事者の台湾売上高が100億台湾元、他方当事者が10億台湾元と定められている。)

 しかし、関連市場の画定及び市場占有率の計算については見解が異なることが多く、法適用の安定性が損なわれることや、諸外国の立法例を参考として、今回の改正では、上記の①及び②の市場占有率の基準を削除し、③の売上高基準の要件のみとすることが予定されている。従って、現行法では市場占有率基準により結合届出が必要となるケースであっても、この改正により届出不要となることがありうると考えられる。

 なお、基準となる売上金額については、事業別に主務機関が公告して定めることになる(具体的な金額についての新たな公告は未だ公表されていない。)。

(2) 売上高の計算の対象範囲に関する若干の規定の新設

 企業結合届出の判断基準を売上高基準のみとすることに伴い、以下のとおり、売上高の計算の対象範囲を拡大する規定が新設される。

  1. ① 支配従属関係にある会社のみならず、兄弟会社関係にある会社の売上高を合算すること。
  2. ② 一定の自然人や団体が、その関係者(例えば、一定の親族関係がある者、団体の管理人等)と合わせて結合当事者に対する過半数の出資を有する場合には、その一定の自然人や団体及びそれらが支配する企業についても売上高を合算すること。

3  待機期間を延長する場合の期間

 企業結合届出を提出した後の待機期間については、現行法では、原則30日、主務機関が必要と認める場合には最大30日延長できるとされているが、今回の改正案では、延長期間の上限を最大60日とすることが予定されている。

 現行法では、特に、企業結合届出の基準である市場占有率の計算の際に困難が伴うことが少なくなかったことから、この点では、今回の改正案は、日本企業による台湾市場に関連するM&Aに対するハードルを一定程度低くするものと考えられる。しかし、上述のとおり、売上高の計算において、兄弟会社や個人オーナーが支配する他の会社の売上高も合算して計算する必要があることになるので、改正案が施行された後は、より慎重に売上高の計算を検討する必要があろう。

 


[1] なお、本稿において検討している公平交易法の改正案の内容は、2014年5月26日に立法院経済委員会で可決された内容であるが、立法院で最終的に確定した段階で内容を確認する必要がある。

 

 

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