ベトナム:【Q&A】強制社会保険に関する近時の変更・留意点(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
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Q. 2014年11月に公布された社会保険法のうち、一部の規定が2018年1月から施行され、社会保険の対象となる労働者の範囲、及びその保険料の計算方法に関して変更が必要になったと聞きましたが、本当でしょうか。その他、社会保険制度に関して最近の留意すべき変更点はあるでしょうか?
- A. ベトナムの社会保険制度に関して、近時変更された点として、①保険料の計算において参照される「月給」の範囲、②社会保険の対象となる労働者の範囲の変更、③保険料の上限額の変更、④社会保険の未加入に対する刑事罰の新設、といった点が挙げられます。なお、外国人労働者の社会保険加入の義務化については2018年10月15日付で政令143/2018/ND-CP号が公布されましたが、これについては別の稿でご紹介します。
1. 社会保険料の計算において参照される「月給」の範囲
ベトナムにおいては、社会保険は医療保険、失業保険と同様に、強制保険の一つとして法定されています。社会保険の対象となる労働者、及びその労働者を雇用する使用者は、社会保険料を納付する義務を負っており、現在の社会保険料は、労働者の「月給」に対して、使用者が17%、労働者が8%とされています。
ここでいう「月給」(ベトナム語:Tiền lương tháng)の範囲として、2017年までは、①基本給(mức lương)及び②手当(phụ cấp lương)のうち、労働条件(危険有害重労働)、業務複雑性(役職・資格等)、生活条件(遠隔地等)、労働者の需給関係等を考慮して補填するためのもの(政令05/2015/ND-CP号21条1項b号、通達47/2015/TT-BLDTBXH号4条2項a号)が含まれるとされていました。
これに加えて、2018年1月1日からは、③その他補助(các khoản bổ sung khác)(政令05号21条1項c号、通達47号4条3項a号)のうち、基本給及び手当以外に支給される金銭で、労働契約上の職位及び業務に関わるもののうち、毎月固定額が支給されるものについても、「月給」に含まれることになります(社会保険法第89条第2項)。
これらの概念について、ベトナム社会保険総局が様々な民間企業から照会に対して、以下のようにオフィシャルレターの形で回答しています。
(社会保険の計算に用いる)Tiền lương tháng |
月給 |
基本給(mức lương)、手当(phụ cấp lương)及びその他の補助(các khoản bổ sung khác)を含む。 |
Mức lương |
基本給 |
仕事の時間又は職位に対応する賃金であり、使用者が作成した賃金テーブルに基づく賃金を意味する。 |
Phụ cấp lương |
手当 |
役職手当、赴任手当、危険・重労働に関する手当、経験手当、勤務場所に関する手当、労働者の流動性が高い職場に適用される手当、職場がインフラ未整備であることに関する手当等 |
Các khoản bổ sung khác |
その他の補助 |
以下を含む。
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また、以下のものについては、社会保険料の計算における「月給」には含まれないものとしています。
社会保険を計算するための月給に含まれないもの |
使用者の経営状況や労働者の仕事の評価に基づく賞与 正月の賞与、テト賞与等の年次賞与 業務改善に寄与したことへの賞与 シフト間の食事手当 ガソリン手当、通信手当、異動手当、住居手当 育児手当、幼稚園手当 慶弔手当 誕生日手当 労災手当 労働契約において賃金以外の項目に記載されている他の手当。 |
(次稿につづく)