◇SH0465◇下請法違反行為(下請代金の減額)の勧告事例 田中貴士(2015/11/05)

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下請法違反行為(下請代金の減額)の勧告事例

岩田合同法律事務所

弁護士 田 中 貴 士

 

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成27年10月23日、ミヤコ株式会社に対し、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)4条1項3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたとして、下請法7条2項に基づく勧告を行った。
 下請法4条1項3号は、親事業者に対し、下請事業者に製造委託等をした場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることを禁止している。
 上記勧告では、親事業者は、下請事業者14名に対し、「セール協賛金」「カタログ協賛金」「現金リベート」などとして総額2174万3475円を下請代金の額から差し引いていたとされている。

 公取委が平成27年6月3日に公表した「平成26年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」によれば、公取委が平成26年度に下請法7条に基づく勧告、又は違反行為の改善を求める指導を行った事件を違反行為の類型別[1]にみると、親事業者の禁止行為を定めた実体規定違反(下請法4条違反)の件数4,529件のうち、下請代金の減額(同条1項3号)は、下請代金の支払遅延(同条1項2号)、買いたたき(同条1項5号)に次いで3番目に多い件数となっている。また、下請事業者の被った不利益について親事業者が行った原状回復(返金等)の金額を違反行為の類型別にみると、総額8億7120万円のうち、下請代金の減額に係る原状回復額(4億499万円)が最も多い(図・表参照)。
 そこで、以下では、この「下請代金の減額の禁止」の基本的な留意点について記載する。

 まず、「下請代金の額」とは、親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付に対し支払うべき代金の額を指す(下請法2条10項)。具体的には、親事業者が発注に際して下請事業者に交付する書面(発注書面、下請法3条)に記載された下請代金の額である。

 次に、下請代金の額を「減ずること」には、下請代金の額から一定金額を差し引く方法(例えば、毎月の下請代金の残高から減額分を相殺するという処理で支払時に減額する方法。)のほか、下請代金の額から差し引くことなく、下請事業者に、親事業者の銀行口座に減額する金額を別途振り込ませる方法も含まれる。また、親事業者による一方的な減額だけでなく、下請事業者の同意がある場合も、下請代金の額を「減ずること」に含まれる。
 したがって、仮に親事業者と下請事業者との間で下請代金の減額や「リベート」「協賛金」などの振り込みについて合意し、契約書等で書面化していたとしても、下請事業者の責めに帰すべき理由(下請事業者の給付に瑕疵がある場合や、納期遅れなど)がない限り、それらが下請代金の減額として下請法上問題となることに変わりはない。
 但し、親事業者が下請代金を下請事業者の銀行口座に振り込む際の振込手数料については、発注前に、当該手数料を下請事業者が負担する旨を書面で合意している場合に限り、親事業者が銀行に支払う実費の範囲内で、当該手数料を差し引いて下請代金を支払うことができる。

 一方、下請代金から差し引くとしても、親事業者が下請事業者に販売した商品の売掛金がある場合に、弁済期にある売掛金の額を下請代金と相殺(民法505条)することにより差し引くことは、下請代金の額を「減ずること」に当たらない。
 もっとも、親事業者が電子発注システムを用いて下請事業者に発注情報を提供している場合のシステム利用料については、注意を要する。下請事業者のシステム利用状況に応じて追加的に発生する費用について、下請事業者が得る利益の範囲内で、親事業者が下請事業者に負担を求めることは認められているが、発注書面の交付義務は親事業者にあるから(下請法3条)、システム開発費、保守費、発注情報の提供に要する費用は、本来親事業者が負担すべき費用である。したがって、これらの費用をシステム利用料として下請代金から相殺して差し引くなどしている場合には、親事業者と下請事業者との間であらかじめ合意していたとしても、下請代金の減額として下請法上問題となる。

 このように、「下請代金の減額の禁止」に該当する違反行為は広範にわたる。親事業者にあっては、各社の取引の実情を踏まえた社内研修などを通じ、発注担当者にも下請法の正しい理解の浸透、徹底を図ることが肝要である。

 

(公正取引委員会「平成26年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」より引用)

 

(公正取引委員会「平成26年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」より引用)



[1] 1件の事件において複数の違反行為類型について勧告又は指導を行っている場合があるため、違反行為の類型別件数の合計9,080件(うち手続規定違反4,067件、実体規定違反4,529件)と、公取委が平成26年度に勧告又は指導を行った事件の件数5,468件(うち警告件数7件、指導件数5,461件)とは一致しない。

 

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