◇SH0470◇コーポレート・ガバナンスに関する報告書の事例分析 伊藤広樹(2015/11/10)

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コーポレート・ガバナンスに関する報告書の事例分析
~京セラ株式会社の事例を題材に~

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 本年6月1日、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)の適用が開始された。周知のとおり、CGコードの適用開始を受けて、上場会社は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」という。)において、CGコードの各原則について開示を行う必要がある。具体的には、CGコードに含まれる各原則のうち、①一定の事項を開示すべきとする原則(以下「開示原則」という。)については、当該開示原則に従った内容を開示する必要があり、また、②それ以外の原則についても、当該原則を実施しない場合にはその理由を開示する(いわゆる「Explain」)必要がある。

 上場会社の多数を占める6月総会の会社は、本年12月中に上記CG報告書の提出期限を迎えるため、既に提出済みである会社を除き、現在、多くの会社が準備を進めているところであると理解しているが、本稿では、本年10月29日に提出された京セラ株式会社のCG報告書を題材にして、特に参考となる開示内容について紹介することとしたい。

 

1.  開示原則に関する開示(上記①)

<原則1-4~政策保有株式の保有方針~>

 CGコード上、政策保有株式については、その保有方針を開示することが求められている(原則1-4)。本原則は、政策保有株式の処分自体を求めるものではないが、株主・投資家に対する説明の観点からは、政策保有株式の保有には合理的な理由が求められ、その帰結として、保有の合理性を説明することができない政策保有株式については、その保有を継続することは事実上困難であろう。

 したがって、保有方針を検討するにあたっては、この点に十分留意する必要があるが、本事例は、保有方針を中長期的な企業価値向上の観点から定めている点で合理的であると言え、また、保有の意義がない株式の売却に言及するなど、株主・投資家の目線を意識した内容であると評価できる。
 

<原則3-1(ⅴ)~経営陣幹部の選任及び取締役・監査役候補の指名の理由~>

 CGコード上、経営陣幹部及び取締役・監査役候補については、その選任・指名の理由の開示が求められている(原則3-1(ⅴ))。この点に関して、本事例では、取締役・監査役候補者の個々の選任理由については株主総会招集通知において開示する旨を述べているが、会社法施行規則上、株主総会参考書類に選任理由の記載が求められているのは社外役員のみであり、それ以外の役員(社内役員)については選任理由の記載が求められていない(同規則74条、76条)ことから、社内役員については、株主総会参考書類に選任理由が明記されていない例も珍しくない。

 そのような会社のCG報告書では、(1)Explainと整理した上で次回の定時株主総会から選任理由を記載する旨を開示する例や、(2)社内役員については略歴等が記載されていることをもって選任理由が記載されていると整理する(いわゆる「Comply」と整理する)例も見受けられる。

 なお、本事例は、今後選任理由を開示することをもってComplyと整理しているが、CG報告書の提出日現在で未実施であり、かつ、今後実施する予定の原則について、Complyとして整理することができるかは議論の余地があろう。(東京証券取引所からは、近時の上場会社宛ての通知の中で、同様の事例についてExplainとして整理すべきであるとのコメントが出されたと仄聞している。)

2.  Explainに関する開示(上記②)

<原則4-8~独立社外取締役の有効な活用~>

 CGコード上、上場会社には2名以上の独立社外取締役の選任が求められている(原則4-8)。この点に関して、本事例は、独立社外取締役が1名に留まるため、その理由をExplainしているものであるが、当該独立社外取締役の経験・見識等や独立社外監査役の存在により、監督・監査機能が確保されている旨を述べるものである。その上で、今後の独立社外取締役の増員についても言及しており、バランスの取れた開示内容であると評価でき、同様の状況にある会社にとって参考になる。

原則1-4

政策保有株式の保有方針

  1. → 政策保有株式の保有には合理性が求められている点に留意が必要。

原則3-1(ⅴ)

経営陣幹部の選任及び取締役・監査役候補の指名の理由

  1. → 社内役員について、株主総会参考書類に選任理由が明記されているか否かを確認の上、Comply or Explainを検討。

原則4-8

独立社外取締役の有効な活用

  1. → Explainする場合には、現状の体制での監督・監査機能の実効性とともに、今後の方針について言及することがポイント。

 

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