◇SH0474◇最一小決 平成26年4月14日 市町村長処分不服申立てに対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(白木勇裁判長)

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1 事案の概要

 本件は、未成年者であるAの親権に関し、Aの実父であるXが、Aの親権者をその実母及び養親からXに変更する審判(以下「別件審判」という。)に基づき、Aの親権者をXに変更する親権者変更の届出(以下「本件届出」という。)をしたところ、戸籍事務管掌者であるYが本件届出を不受理とする処分(以下「本件処分」という。)をしたため、本件処分は不当であるとして、戸籍法121条に基づき、Yに本件届出の受理を命ずることを申し立てた事案である。

 

2 本件の経過等

 本件の経過等は、次のとおりである。
 (1) Aは、当初、実父であるXと実母が協議離婚をしたことにより、実母の単独の親権に服していたが、その後、実母が再婚し、実母の再婚相手とAが養子縁組をしたことにより、Aは、実母及び養親の共同親権に服することとなった。
 しかし、養親は、Aに対し、しつけと称して体罰を繰り返し、体罰に関する事実を知ったXが家庭裁判所に親権者変更に係る申立てをした結果、平成24年1月、Aの親権者を実母及び養親から実父であるXに変更する別件審判がされ、その後、別件審判が確定した。
(2) そこで、Xが、別件審判に基づき本件届出をしたところ、戸籍事務管掌者であるYは、本件届出を不受理とする処分をした。そのため、本件申立てがされるに至った。
 Yは、別件審判の法令違反を理由に本件届出を不受理としたものと思われる。

 

3 問題の所在

 (1) 別件審判は、子が実親の一方と養親の共同親権に服している場合に、親権者を他の一方の実親に変更したものである。そこで、家庭裁判所は、親権者の変更について規定した民法819条6項により、このような親権者の変更をすることができるのか問題となる。
 (2) 次に、仮に、そのような親権者の変更ができず、別件審判が民法819条6項の解釈適用を誤った違法なものであった場合に、戸籍事務管掌者は、別件審判の法令違反を理由に戸籍の届出を不受理とすることができるのかが問題となる。

 

4 親権者変更の可否

 そこで、子が実親の一方と養親の共同親権に服している場合に、民法819条6項により、親権者を他の一方の実親に変更することができるのかについて検討する。
 (1) まず、実務家の見解も含め学説においては、この問題について論じるものは多くはないものの、民法819条6項は子が父母の一方の単独の親権に服している場合を前提とした規定であるとして、子が実親の一方と養親の共同親権に服している場合に親権者を他の一方の実親に変更することは許されないとする見解(山名学「子が一方の実親と養親の共同親権に服する場合の他方の実親の親権者変更の申立ての可否」沼邊愛一ほか編『家事審判事件の研究(1)』(一粒社、1988)176頁以下ほか)が、通説的見解といえるように思われる。
 また、高等裁判所及び家庭裁判所の裁判例の状況をみると、これを肯定する裁判例として、大阪高決昭和43・12・24家月21巻6号38頁があるものの、この決定以外には、公刊されている裁判例において肯定説をとったものは見当たらない。東京高決昭和48・10・26判時724号43頁など裁判例の大勢は、親権者変更を認めない否定説を採っている状況にある。
 (2) このように、学説及び裁判例において、否定説が多数を占める大きな理由は、民法819条の規定の構造等にあるように思われる。
 すなわち、民法819条は、1項から5項までにおいて、子の父母が離婚する場合等には、子は父又は母の一方の単独の親権に服することを前提として、親権者の指定等について規定し、これらの規定を受けて、6項においてその指定等された親権者の変更について規定している。このように、1項から5項までの規定を受けた6項は、単独の親権であることを前提とした規定とみることができる。また、6項の規定は、「親権者を他の一方に変更」することができるとするものである。
 このような民法819条の規定の構造や同条6項の規定の文理からすれば、同項は、子が実親の一方及び養親の共同親権に服している場合を予定した規定とは考えられないところである。
 また、子が実親の一方及び養親の共同親権に服している場合においても、子の保護の観点から何らかの措置をとる必要がある場合もあり得るところであるが、そのようなときには、親権喪失の審判や児童福祉法上の措置等を通じて子の保護を図ることも可能である。
 本決定は、以上のような観点から、子が実親の一方及び養親の共同親権に服する場合、民法819条6項の規定に基づき、子の親権者を他の一方の実親に変更することはできないと判断したものと思われる。

 

5 不受理処分の可否

 そうすると、親権者の変更を認めた別件審判には、民法819条6項の解釈適用を誤った法令違反があることになる。そこで、そのような法令違反を理由に、戸籍の届出を不受理とすることができるのか問題となる。
 (1) 審判による親権者の変更は、婚姻などのように届出によって身分関係の発生等の効力が生ずる創設的届出によるものとは異なり、審判の確定によって形成的に親権者変更の効力が生ずるものであるから、当該審判が誤った法令の解釈に基づくものであったとしても、当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合を除いては、確定審判の形成力によって、親権者変更の効力が生じているものである。そして、このように親権者変更の効力が生じている以上、身分関係を公証する戸籍にこれを反映させる必要があると考えられる。
 ところで、戸籍事務管掌者は、戸籍の届出が民法その他の法令の規定に違反していないか審査する権限を有する(民法740条参照)。しかし、このような戸籍事務管掌者の審査権限との関係で考えても、例えば婚姻の届出のようなものと、法令上裁判所の判断事項とされ裁判所にその判断が委ねられているものとでは、自ずから審査の範囲も異なるものになると考えられ、確定審判に基づく戸籍の届出の場合には、戸籍事務管掌者による当該審判に関する審査の範囲も限られたものになると解される。
 本決定は、そのような観点から、決定要旨のとおり判断したものと思われる。
 (2) なお、一般に論じられている判決の無効や審判の無効は、形式的確定力も生じないという意味のものではなく、既判力や形成力などの判断内容に係る効力が生じないという意味のものである(伊藤眞「民事訴訟法〔第4版〕」(有斐閣、2011)496頁以下参照)。本決定では、そのような場合を指すものであることを明確にする観点から、届出を不受理とする処分をすることができる場合として、単に「当該審判が無効である場合」とせずに「当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合」とされたものと思われる。そして、本決定では、上記の場合(当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合)を除き、不受理とする処分をすることができないとされたものであるが、本決定によれば、戸籍事務管掌者としては、形式的審査の下で当該審判が上記の場合に当たると判断できない場合には、受理することになると思われる。
 また、いかなる場合にそのような意味で審判が無効となるかについては、判決の無効の場合に準じて考えることができると解されるが(佐上善和「家事審判法」(信山社出版、2007)250頁参照)、判決の無効について論じられている内容に照らして考えれば、審判が無効となる場合は、通常は考えにくいであろう。
 本件についてみても、別件審判は、民法819条6項の解釈を誤ったものではあるが、他方の実親を親権者としたものであることなどを考慮すれば、別件審判が無効であるということはできないものである。

 

6 本決定の射程等

 (1) 本決定の射程に関し、本決定は、親権者変更の確定審判に基づいて戸籍の届出をした場合について判断したものである。しかし、確定審判の形成力を根拠としている点で、本決定の趣旨とするところは、当該審判の確定により効力が生ずるものや例えば判決による離婚のように当該判決の確定により効力の生ずるものについての戸籍の届出の場合にも当てはまるものと思われる。
 (2) なお、当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合を除き不受理とすることはできないとする本決定の決定要旨に照らすと、別件審判に法令違反があるか否かについての判断は、本件の結論を導くに当たって不可欠なものではないことになると考えられるが、本件では、別件審判に法令違反がないとすると、本件届出を不受理とする理由がなくなるものでもあるほか、上記のとおり親権者変更について肯定説に立った高裁決定もあったことなどから、民法819条6項の解釈についても判断されたものと思われる。

 

7 結語

 本決定は、戸籍事務管掌者が親権者変更の確定審判に基づく戸籍の届出を当該審判の法令違反を理由に不受理とすることができるか否かについて、最高裁が初めて判断を示したものであり、理論的にも実務的にも重要な意義を有するものと考えられる。

 

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