◇SH3854◇最二小判 令和3年6月4日 被災者生活再建支援金支給決定取消処分取消請求本訴、不当利得返還請求反訴、不当利得返還請求事件(菅野博之裁判長)

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 被災者生活再建支援法に基づき被災者生活再建支援金の支給決定をした被災者生活再建支援法人が支給要件の認定に誤りがあることを理由として当該決定を取り消すことができるとされた事例

 東日本大震災により被害を受けた世帯が大規模半壊世帯に該当するとの認定の下に被災者生活再建支援法に基づき被災者生活再建支援金の支給決定がされた場合において、当該世帯の居住する住宅の被害の程度が客観的には半壊に至らないものであったなど判示の事情の下では、当該決定をした被災者生活再建支援法人は、上記認定に誤りがあることを理由として、当該決定を取り消すことができる。

 被災者生活再建支援法(令和2年法律第69号による改正前のもの)2条2号、被災者生活再建支援法3条1項

 令和2年(行ヒ)第133号 最高裁令和3年6月4日第二小法廷判決
 被災者生活再建支援金支給決定取消処分取消請求本訴、不当利得返還請求反訴、不当利得返還請求事件
 破棄自判

 原 審:平成30年(行コ)第43号 東京高裁令和元年12月4日判決
 第1審:平成26年(行ウ)第646号、平成27年(行ウ)第96号、平成27年(行ウ)第108号 東京地裁平成30年1月17日判決

1 事案の概要

  本件は、被災者生活再建支援法(令和2年法律第69号による改正前のもの。以下「支援法」という。)所定の被災者生活再建支援金(以下「支援金」という。)に関し、これを支給した被災者生活再建支援法人(以下「支援法人」という。)とその支給を受けた世帯主らとの間で、その返還の要否等が争われた事案である。

 ⑵ 支援金の支給に関する制度の概要等

 支援金の支給は、被災世帯となった世帯の世帯主に対し、その申請に基づいて行われる(支援法3条1項)。「被災世帯」とは、所定の自然災害(宮城県の区域に係る東日本大震災は該当)により被害を受けた世帯であって、支援法2条2号イからニまでに掲げるもの(イが全壊世帯、ニが大規模半壊世帯)をいう(同号)。

 支援金の支給の申請は、原則として、被災世帯であることを証する書面を添えて申請書を提出してしなければならない(支援法5条、令和2年政令第341号による改正前の被災者生活再建支援法施行令4条1項)。平成23年当時、市町村が自治事務として交付する罹災証明書は上記書面に当たると扱われ、市町村が認定する地震による住家の被害の程度は、全壊、大規模半壊(部位別損害割合の合計40%以上50%未満)、半壊(同20%以上40%未満)及び一部損壊(同20%未満)の4区分とされていた。

 都道府県は、支援金の支給に関する事務の全部を支援法人に委託することができ(支援法4条1項)、支援法人に対し、その業務を運営するための基金に充てるために必要な資金を拠出する(支援法9条2項)。国は、東日本大震災については、支援法人が支給する支援金の額の5分の4に相当する額を補助する(支援法18条、東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律5条の2第1項)。

 ⑶ 本件の事実経過と争点等

 Xら(47名)は、東日本大震災が発生した平成23年3月当時、仙台市A区所在の9棟から成るマンション群のうち1棟(以下「本件マンション」という。)の専有部分に居住していた世帯の世帯主(以下「本件世帯主ら」といい、その世帯を「本件各世帯」という。)又はその相続人である。Y(公益財団法人都道府県センター)は、宮城県から支援金の支給に関する事務の委託を受けた支援法人である。

 A区は、当初、東日本大震災による本件マンションの被害の程度を一部損壊(部位別損害割合の合計16%)と認定したが、平成23年8月、住民の求めを受けて再度調査した結果、部位別損害割合の合計を46%と認定し、本件世帯主らに対し、上記被害の程度が大規模半壊である旨の罹災証明書(以下「本件証明書」という。)を交付した。Yは、本件証明書を添付してされた申請に基づき、同年9月から同年12月までの間に、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとして、本件世帯主らに対し、支援法3条所定の金額(37万5000円~150万円)の支援金(以下「本件各支援金」という。)を支給する旨の決定(以下「本件各支給決定」という。)をし、その後これを支給した。

 しかし、A区は、前記マンション群に属する他8棟の被害の程度が大規模半壊に至らないとの認定を受け、平成23年12月、職権で本件マンションの被災状況を更に調査した結果、部位別損害割合の合計が16%にとどまると認定し、平成24年2月、本件世帯主らに対し、被害の程度が一部損壊である旨の罹災証明書を改めて交付した。そこで、Yは、平成25年4月、本件世帯主らに対し、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとの認定に誤りがあることを理由に、本件各支給決定を取り消す旨の決定(以下「本件各取消決定」という。)をした。

 なお、本判決では言及されていないが、原審認定事実によれば、内閣府は、平成24年3月、Yに対し、補助金に係る国との関係で本件各支援金に支給根拠があると扱うことも、Xらとの関係で本件各支給決定を取り消すことも許されず、市町村に対する求償を検討すべき旨の見解を示したとされている。

 本件は、Xらが、本件各支給決定を取り消すことは許されないとして、Yを相手に、本件各取消決定の取消しを求める一方(本訴)、Yが、本件各取消決定により本件各支援金を保持する法律上の原因が失われたとして、Xらに対し、これに相当する額の不当利得返還を求めた(反訴)事案である。主たる争点は、⑴ 本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するか、⑵ 支給要件の認定の誤りを理由に本件各支給決定を取り消すことが許されるかであり、当審では専ら ⑵ が争われた。

 

2 訴訟の経過及び本判決の判断等

 争点 ⑴ については、第1審と原審のいずれも本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとは認められないとしたが、争点 ⑵ については、次のとおり、第1審と原審との間で判断が分かれた。

 第1審は、Ⓐ本件各支給決定の効果を維持することによる公益上の不利益(支援法の適用における公正・公平や国民一般の負担となる財源が害されること)が、Ⓑ本件各支給決定の取消しによって生ずる不利益(本件世帯主らは本来的に本件各支援金を保持できない上、その使用により経済的利益を享受していること)を上回るから、本件各支給決定を取り消すことは許されると判断し、本訴請求を棄却するとともに反訴請求を認容した。

 これに対し、原審は、Ⓐ本件各支給決定の効果を維持することによる公益上の不利益(基金の健全性に支障を生じさせ、支援金の支給に関し不公平感を生じさせる可能性があること)が、Ⓑ本件各支給決定の取消しによって生ずる不利益(本件証明書の内容が事後に変更されるリスクは事務処理上の利益を享受しているYが負担すべきであり、その被害認定を事後に覆すことは支援金の使用をちゅうちょさせるなど支援法の趣旨に沿わない事態を生じさせかねないこと等)を上回らないから、本件各支給決定を取り消すことは許されないと判断し、本訴請求を認容するとともに反訴請求を棄却した(詳細は判決理由参照)。

 Yが上告受理の申立てをしたところ、最高裁第二小法廷は、本件を受理した上で、争点 ⑴ に対する原審の判断を前提として、争点 ⑵ について、判決要旨のとおり、本件各支給決定を取り消すことは許されると判示して、原判決を破棄し、Xらの控訴を棄却する自判をした。

 なお、Yは、支援金の支給を受けた本件マンションの他の世帯主ら(11名)に対しても、支給決定の取消決定をした上で不当利得返還を求める関連訴訟(3件)を提起していたところ、関連訴訟においても、本件と同様の問題が争われた上、第1審(①東京地判平成30・5・10判例秘書、②東京地判平成30・9・27判タ1459号123頁、③東京地判平成30・9・14判タ1469号72頁)と原審(①②東京高判令和元・7・18 D1-Law、③東京高判令和元・7・24判タ1469号62頁)との間で判断が分かれた。第二小法廷は、関連訴訟を本件と並行して審理し(①令和元年(行ヒ)第371号、②同第374号、③同第388号)、本判決と同日、関連訴訟についても判決要旨と同様の判示をした。

 

3 説明

 ⑴ 行政処分の職権取消しの適否に関する判断基準

 本件各取消決定は、本件各支給決定に原始的な瑕疵(支給要件の認定の誤りという違法)があることを理由として、その効力を遡って失わせるものであり、行政処分の職権取消しに当たる。職権取消しは、法令又は公益(行政目的)に違反している状態の是正を目的とするものであるため、明文の規定がなくてもすることができることに異論はない(塩野宏『行政法Ⅰ――行政法総論〔第六版〕』(有斐閣、2015)189頁)。

 もっとも、本件各支給決定のような名宛人に利益を付与する処分(授益処分)の職権取消しは、名宛人に不利益をもたらすおそれがあるため、一定の制約を受けると解されている(取消権の制限)。最高裁判例(最二小判昭和31・3・2民集10巻3号147頁、最一小判昭和43・11・7民集22巻12号2421頁等)によれば、授益処分の職権取消しは、処分の取消しによって生ずる不利益と処分の効果を維持することによる不利益とを比較考量し、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められるときにすることができると解される。第1審と原審のいずれも基本的には上記の判断枠組みに沿っていることがうかがわれるが、両者の間で結論が分かれたのは、上記の利益衡量の在り方や考慮要素等について、異なる考え方や視点が採用されたためであると考えられる。

 上記の利益衡量の在り方については、様々な見解が述べられているが(学説及び裁判例を概観するものとして乙部哲郎『行政行為の取消と撤回』(晃洋書房、2007)367頁以下)、具体的な利益状況が事案ごとに異なることからすると、処分に係る法律の仕組みに即して、その取消しによる不利益や瑕疵の原因等を具体的に考慮するのが相当と考えられる(前掲・塩野190頁、芝池義一『行政法総論講義〔第4版〕』(有斐閣、2001)169頁以下参照)。この考え方を更に分析すると、上記の利益衡量における考慮要素としては、㋐処分の瑕疵(違法)の原因、内容及び程度、㋑処分の取消しにより名宛人その他の者が被る不利益の性質、内容及び程度、㋒処分の効果を維持することにより害される公共の利益の性質、内容及び程度、㋓処分の取消しの時期が中心となろう。㋒について、行政上の給付に過誤払がある場合の具体的内容としては、社会保障の分野での取扱いを参考にすると、ⓐ支給の適法性及び平等原則の確保による制度の安定的運用、ⓑ財政規律の確保、ⓒ多数の者が迅速な給付を受ける利益を挙げることができるように思われる(岡田正則「社会保障領域での授益的行政行為の取消しと行政手続の課題―社会保険(年金)を中心に―」行財政研究31号(1997)18頁以下、遠藤博也『行政行為の無効と取消―機能的論見地からする瑕疵論の再検討―』(東京大学出版会、1968)160頁以下参照)。

 ⑵ 本件各支給決定の職権取消しの適否

 本件各支給決定の根拠法令である支援法は、その目的、内容(支援金の支給要件である「被災世帯」の意義、支援金の額の決定方法等)等に照らすと、自然災害による住宅の被害が所定の程度以上に達している世帯のみを対象として、その被害を慰謝する見舞金の趣旨で支援金を支給する立法政策を採用し(生田長人「被災者・被災地に対する再建支援の法制度についての考察」法時81巻9号(2009)23頁)、支給要件の認定を迅速に行うことを求めつつ、公平性を担保するため、その認定を的確に行うことも求めていると解される(平成10年5月14日第142回国会衆議院災害対策特別委員会会議録第4号5、9頁、平成19年11月1日第168回国会衆議院災害対策特別委員会会議録第3号10、15頁参照)。

 この支援法の仕組みを前提として上記 ⑴ の利益衡量を行うと、本件マンションの被害の程度は客観的には一部損壊にとどまるから、本件各支給決定の誤り(この誤りの原因はA区交付の本件証明書の誤りにあるから、Y又は本件世帯主らの一方に帰責事由があるとはいえない。)は支援金の支給要件の根幹に関わるものといえる(㋐)。そして、本件各支給決定の効果を維持すると、被害を受けた極めて多数の世帯の間で公平性が確保されず(㋒ⓐ)、税金その他の貴重な財源(前記1 ⑵、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律3条1項)を害し(㋒ⓑ)、また、今後、罹災証明書の認定を誤らないようにするため市町村に過度に慎重かつ詳細な調査等を促しかねず(例えば、誤って支給された支援金が返還されないとすると、損失を被った支援法人や国が誤った認定をした市町村に対して損害賠償等を求める可能性を否定できず、これを回避したい市町村にとって過度に慎重な調査を行う動機があるといえよう。)、かえって支援金の支給の迅速性が害されるおそれがあるなどの不利益が生じ(㋒ⓒ)、支援法の目的の実現が困難になりかねない。一方、本件世帯主らは、本件各支給決定の取消しにより本件各支援金を返還させられることとなるが、その利益を享受できる法的地位をおよそ有していない以上、やむを得ないであろう(㋑)。以上に加え、本件各支給決定の取消しまでの期間が不当に長いともいい難いこと(㋓)も考慮すると、本件各支給決定の効果を維持することによる不利益がこれを取り消すことによる不利益を比較して重大であり、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認めることができよう。

 本判決は、以上のような理解に基づき、本件各支給決定の職権取消しが許されるとしたものと考えられる。本判決は、その判示に照らすと、職権取消しの適否を決するための利益衡量においては、法律による行政の原理を回復するという職権取消しの目的を踏まえ、処分の瑕疵の原因、内容及び程度(㋐)を検討することが重要であることを示唆しているように思われる。

 

4 本判決の意義

 本判決は、行政処分の職権取消しに関する事例判断ではあるが、大規模な自然災害が発生した場合に大量にされることが想定される支援金の支給決定につき、根拠法令の仕組みを踏まえた利益衡量を行って職権取消しが許されると判断したものであって、実務上も理論上も重要な意義を有すると考えられる。

 なお、本判決の評釈等として、杉原丈史・新判例解説Watch行政法№221(2021)がある。

 

 

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