中南米:『中南米(ラテンアメリカ)進出法務の基礎講座』掲載開始にあたって
西村あさひ法律事務所
弁護士 山 口 勝 之
中南米は、古くから資源・エネルギーや食料等の調達先として、また巨大な市場として、さらには北米ビジネスの拠点として、多くの日本企業の注目を集めてきた。近年は、中南米諸国のさらなる経済成長や市場開放政策、政情や治安の安定化等が進展しており、これらを背景に日本企業の中南米進出と中南米事業の拡大がますます予想される。
特に2015年は、中南米にとり、米国・キューバ間の国交正常化、アルゼンチンの政権交代、ベネズエラの与党大敗という3つの歴史的な大変化が起きた年であった。キューバでは、54年にわたって断絶していた米国との関係修復を受け、米国以外の全世界との関係にも変化が生じ、多国籍企業がビジネスチャンスを狙って続々と押し寄せている。アルゼンチンでは、先の大統領選で12年続いた既存の反米政権が否定され、自由主義を掲げる新政権は早々に為替取引を自由化するなど、これから海外資本の事業進出を受け入れる準備が急速に進むことが予想される。ベネズエラでも、先の国会議員選で、同じく反米路線をとる現政権の支持母体与党が16年ぶりに大敗、今後の自由主義への大転換は必須の様相を呈しており、多国籍企業にとってビジネスチャンスの誕生を予感させる。
他方で、中南米に進出する企業にとって、ブラジルやメキシコなど一部の国を除き、進出に必要な法務に関する正確な情報は限られており、それ自体を進出のリスクと考えている日本企業も多数あるようである。そこで当事務所では、2014年に中南米プラクティスチームを立ち上げ、正確な知識とノウハウの集約に努めるとともに、外に向けてその情報発信をしてきた。また中南米主要国の有力法律事務所と人材交流を含めた強固な関係を構築するとともに、国際的な法律事務所ネットワークに加盟してすべての中南米諸国で法務サービスを提供できる基盤を整えてきた。
上記の歴史的大変化を踏まえ、2016年は中南米全体にとって飛躍に向けた大きな転換点となる年になることが予測される。そのため今後は多くの日本企業においても、中南米進出をはじめて検討したり、既存の中南米ビジネスを見直す機会が増えてくると思われる。そのような状況下、中南米各国の最新の法務事情を皆様にお届けすることは当事務所の使命と考えており、商事法務ポータルにおける本連載が日本企業の皆様におおいに役立つことを、中南米プラクティスチームを代表して強く願っている。
以 上
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