法のかたち-所有と不法行為
第十話 所有権法と不法行為法-請求権の構成
法学博士 (東北大学)
平 井 進
1 万人の不作為義務
第九話において、フランスで所有権概念に関して古典派と反古典派の対立があり、民法制定時の富井が反古典派の立場をとっていたことを見た。ここでは、そのような対立が生じていた背景について見てみる。
ここで、「AがBにあることをなす(なさない)ことを求める」(法的にBに義務があり、Aにその履行を求める請求権がある)という構造を考えてみる。第二話で見たように、請求権のレベルでは債権と物権のいずれもこの構造をとっており、それが法的に認められるのは、そのように認める社会的な規範が存在し、それに反することが起きるときに、または起きないようにするために上記の請求権を認めてよいとするからである。
第二話で示した構図を再び掲げると、次のようである。
- ⑴ 予め義務者が特定され、義務が履行されるようにする法(契約)
- ⑵ 予め義務者が特定されず、違反が起きる時に義務者とその義務が特定され、その違反による状態を是正する法(不法行為・所有)
上記⑵の規範は、ある「実体」の状態を維持することであり、それが人の身体・自由・名誉等であれば不法行為であり、人が外部にもつ対象であれば所有権または不法行為である。
前述のように、所有権が他の権利と同じく「人と人の関係」であることを指摘していたのは、プーフェンドルフやカント等の哲学者であった。これに関連して、法学者では、ドイツのヴィントシャイト[1]やフランスのプラニオル[2]らが、所有権に関して万人が不作為(回避)の義務を負う法関係であると述べていた。