中国:外商投資企業設立及び変更届出管理弁法(パブコメ版)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
2016年10月1日より外商投資企業の設立及び変更(持分の譲渡、解散等を含む。)について、国が規定する進入特別管理措置(いわゆる外商投資進入ネガティブリスト)[1]に該当しない場合には、従前の商務部門による審査認可は不要となり、届出を行えばよいことになっている。この届出に関し、商務部は2016年10月8日付けで「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法」(以下「現行届出暫定弁法」という)を公布した。
届出管理制の実施から1年の経過を待たずに商務部は2017年5月27日付で「外商投資企業設立及び変更届出管理弁法」のパブリックコメント版(以下「新届出弁法案」という)を公布した。パブリックコメントの提出は既に締め切られているが、施行予定時期は明らかでない。本稿では、新届出弁法案の主な変更点及び現行届出暫定弁法のもとで明確ではなくかつ新届出弁法案においても明確にされていない事項を紹介する。
1. 新届出弁法案の主な変更点
新届出弁法案の現行届出暫定弁法からの主な変更点としては、「外国投資者による買収」を新たに届出管理の対象に追加し、これに伴い、外国投資者の最終実質支配者の変更等を届出事項とし、届出資料も追加されたことが挙げられる。
(1) 外国投資者による買収に届出管理制を適用
現行届出管理制度のもとでは、外国投資者による中国国内資本企業(いわゆる内資企業)の買収によって外商投資企業が変更設立される場合は、事業分野を問わず、届出ではなく審査認可制度の対象となっている。この点に関し、外国投資者がネガティブリスト以外の分野の会社を新規設立する場合は商務部門の認可が不要であることと比較して合理性を欠くという指摘がなされていた。
上記の指摘を受け、新届出弁法案では、「外国投資者による買収」も届出管理の適用範囲に追加された。すなわち、買収、戦略投資、吸収合併等の方法により、非外商投資企業が外商投資企業に変更される場合には、社名仮認可通知書の取得から営業許可証の発行までの期間、又は、営業許可証の発行後30日内に届出手続を行うこととされた。これにより、外商投資進入ネガティブリストに該当しない分野における外国投資者による内資企業の買収手続が簡素化されるものと評価されている。
もっとも、2017年6月28日公布の外商投資産業指導目録(2017年改訂)では、外商投資進入ネガティブリストの説明において、「国内の会社、企業又は自然人が、合法に設立し又は支配する国外の会社を通じて、関連関係のある国内会社を買収し、外商投資プロジェクト及び企業の設立及び変更事項にかかわった場合は、現行規定に従う」と記載されていることとの関係において注意が必要であり、中国の会社、企業又は自然人による中国外の関連会社(SPCを含む)を通じた国内企業の買収は、依然として審査認可制度の対象となるものと解される。
(2) 届出事項及び届出資料の追加
外国投資者による内資企業の買収が届出管理の対象となることに伴い、新届出弁法案では、以下の届出事項が追加された(「新届出弁法案」6条)。
- ① 外国投資者の最終実質支配者の変更
- ② 買収により外商投資企業を設立する取引の基本情報の変更、これには、買収の支払対価、支払方法や、買収された持分/資産の評価価値の変更が含まれる。
- ③ 外国投資者による上場会社に対する戦略投資の基本情報の変更、これには、上場会社への戦略投資の支払対価、支払方法の変更が含まれる。
また、上記①外国投資者の最終実質支配者の変更の届出の際に、外商投資企業及びその外国投資者最終実質支配者の持分構成図を提出する必要がある(「新届出弁法案」8条(七))。外国投資者の最終実質支配者の変更との関係では、外国投資者に対する最終実質支配者の情報を開示義務が強化されることから、外資系会社の負担が増加することになる。
2. 現行届出暫定弁法のもとで明確ではなく、新届出弁法案のもとでも明確にされていない事項
届出管理制の実施以降、実務において、現行届出暫定弁法に定めのない事項について、地域ごとに対応が異なる事例が多く見受けられる。以下、典型的な事例を紹介する。
(1) 届出と工商登記の前後関係
法令上は、外資系会社変更の届出と工商登記の前後関係について明確な定めがないため、届出をしてから初めて工商登記可能とする地方と工商登記してから届出可能とする地方が存在し、地方ごとに当局へ確認する必要がある。
(2) 届出時期
届出の時期について、現行届出暫定弁法6条では、外資系会社の変更事項の発生後30日内に届出手続を行うとされ、かかる変更事項が権力機関の決議にかかわる場合には、当該権力機関による決議時を変更事項の発生時とする(法律法規に変更事項の効力発生に別途要求ある場合を除く)、と定められている。しかしながら、将来の特定の時点に効力が発生する内容の決議をする場合に届出義務の発生時点が明確でないという問題がある。
(3) 届出と公告の前後関係
新届出弁法案10条では、公告が必要な事項として、解散及び資産買収が含まれることが明確にされた。もっとも、実務においては合併、分割、減資等を含め公告が必要な変更事項について、届出と公告の先後関係が明らかでないという問題がある。
上記の点は新届出弁法案においても明確な規定がないため、実務において統一的な対応が確保できる措置が期待される。
[1] 2016年10月8日付けで国家発展改革委員会及び商務部が共同で公布した2016年第22号公告によれば、外商投資進入ネガティブリストは、「外商投資産業指導目録(2015年改訂)」における制限類、禁止類、及び奨励類に持分比率要件又は高級管理職の資格制限のある規定に従うとされていた。また、2017年6月28日付で、「外商投資産業指導目録(2017年改訂)」が公布された。2015年版の目録では外商投資産業が奨励類、制限類、及び禁止類に三分類されていたが、2017年改訂版の目録では、奨励類外商投資産業目録と外商投資進入特別管理措置(外商投資進入ネガティブリスト)の二分類制が採用されている。