◇SH0576◇法のかたち-所有と不法行為 第十話-3「所有権法と不法行為法-請求権の構成」 平井 進(2016/03/01)

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法のかたち-所有と不法行為

第十話  所有権法と不法行為法-請求権の構成

法学博士 (東北大学)

平 井    進

3  所有権による請求権の構成-日本における議論

 所有権による請求権に関して、日本における判例と学説について、大きく次のような流れが見られる。[1]

⑴ 不法行為において、イギリス・フランス・ドイツでは原状回復が認められているが、大審院判決が不法行為の効力を金銭賠償に限定したことにより[2]、所有権に関して妨害排除等を認めるにはドイツ法の物権的請求権の概念を要すると考えられ、所有権による請求権は「所有権の一作用」であるとして運用されるようになる。[3]

⑵ 上記に関連して、妨害排除の権能が物権による特性であると考えられていたのに対して、大審院判決はそれを物権・債権に関わらず権利一般の特性とした。[4]これにより、所有権による請求権を必ずしも物権的請求権によって構成する必要はなくなり、不法行為において原状回復が可能であれば、そのように構成することも可能となる。[5]

 このようにしてみると、所有権による請求権をどのように構成するかは、実際には、不法行為の請求権をどのように認めるかということと関係している。これは、前述のように、不法行為と所有の法が、違反が起きる時に義務者とその義務を特定し、その違反による状態を是正する法として共通する構造をもつことによる。



[1] 参照、七戸克彦「所有権の「絶対性」概念の混迷-とくに物権の性質論・物権的請求権論・物権変動論における」山内進編『混沌のなかの所有』(国際書院, 2000)241-247, 253-254頁。

[2] 大判明治37年12月19日民録10輯30巻1641頁(境界線を越えて他人の所有地を掘った事件)。ただし、民法第709条の制定時に、金銭賠償の原則が厳格に考えられていた訳ではない。

[3] 大判大正5年6月23日民録22輯18巻1161頁(所有物返還請求権は所有権から独立した権利ではなく、時効によって消滅しない)。これ以後、物権的請求権の理解として、物権の効力・作用とするか、物権とは別の債権とするかということが議論となる。

[4] 大判大正10年10月15日民録27輯26巻1788頁(賃貸した漁業権を侵害した事件)。

[5] 末弘厳太郎は、『物権法 上巻』(有斐閣, 1921)50-60頁では物権的請求権によって構成していたが、その後、不法行為を含めた統一理論の必要性を唱えるようになる。

 

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